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 バンっと俺の耳の横で壁がなる。目の前にいる奴が、にやっと笑って壁ドンをしてきた。野郎に壁ドンってあり得ない。桜庭さんなら、横んで腕の中にいるけど。 「どうだ? 女、抱きたいだろ? 思う存分、抱いていい」 「僕が性欲にまみれても、あんたがマスコミに騒がれないように手を打つと?」 「キミは性欲が強いって聞いてるから。それを抑えつけて、HANTERの捨て駒にされるのを見ていたくない。あふれる才能と、欲望は上手に付き合わないとな」  にやりと男が笑う。 「僕もそう思う」  僕も男に合わせて、にやりと口元を緩めた。 「なら、交渉は上手く進んでいるということか。今日の収録が終わったら、連絡をしてこい。早急に手を打とう」  男がポケットから名刺を一枚出すと、僕のシャツのポケットにスッと入れた。連絡まってる、と耳元で囁いて、肩を叩いてから男は僕から離れていった。 「あー、見ぃちゃったあ」とひときわ明るい声で、反対側の壁に寄りかかっていた長瀬社長が楽しそうに笑っていた。 「すんごい熱々カップルみたいな壁ドン」 「きもっ」と僕は言うと、ため息をついた。ポケットから名刺を出すと、社長の前まで進んで、名刺を手渡した。 「いらない、コレ」 「だろうな。なんですぐに断らなかった? 移籍する気、ないくせに」 「ああいう男の心をズタズタにする方法、知ってる?」 「知らねえよ。知ってたら、耀が壊れてねえだろ」  社長が「ちっ」と舌打ちをして、名刺をスーツのポケットにしまった。 「簡単だよ。今夜の歌を聴かせる。僕のために編曲してくれた桜庭さんの曲を。自分が壊した男が、復活していたと知ったら? リハで聞いた曲よりも出来のいい音楽を聴かされたら?」 「焦るだろうな」 「焦るだけじゃないんだよ、おじさん。嫉妬でおかしくなる。あいつ、変態だから。壊してぼろぼろに破壊して、自分を憎んで憎んで憎み続けてくれるこそが愛だと勘違いしてる。いまだに、自分が桜庭さんの愛を受けているって……ってことで。見せつけましょ? 僕の愛を」 「お前も相当、イカレ愛だとおもうが」 「変態野郎よりマシ」 「耀を脅しておいて、何をいうか……っつうか! おじさん言うなって言ってるだろ」  おじさん、に引っかかった社長が眉を吊り上げると、顔を赤くして怒った。僕はクスクスと笑うと、社長の胸をこぶしで軽く押した。  桜庭さんを脅して関係を迫ったことよりも、「おじさん」って外で呼ばれるほうが相当、嫌だったらしい。 「おじさんは、おじさん。文句を言うなら、僕をこう育てたおじさんの姉貴に文句を言うんだな? 言えないだろうけど」  くくくっと僕は笑った。おじさんは、うちの母さんにはめちゃくちゃ弱いから。姉貴特権による主従関係がしっかり根付いている姉弟だから。
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