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「僕の本当の家。同棲を迫ったのは……そんなに長く一緒には居られないと思ったから。思い出を作っておきたくて。ケイの代わりにしてくれるとは思わなかった。今までの若手歌手と同じ。売れて軌道にのってきたら、他のマネに代えられると思ってた。それまでに何としても、白井とケイに仕返しがしたかった。だから歌番組でバッティングするように、おじさんにお願いしたんだ」 「長瀬の言う半殺しの刑?」 「まあ……近いかな。出来ないことはないけど、僕にはまだ早いって言われた。でも今の調子で人気が出てきて、来年の歌番組を待っていたら……桜庭さん以外の人がマネになってしまうって思って。ハルトさんにも相談して、ハルトさんからもおじさんに圧力をかけてもらったりもした」 「ハルトも知っていたとは」 「これは僕の望みでもあったからね」  ガチャリとドアが開いて、ハルトさんが入ってきた。白いシャツに黒のジーパンを履いているハルトさんが、栗色の髪の毛をさらっと掻きあげて笑った。 「ハルト?」 「長瀬さんに甥っ子がいるのは知ってた。その並外れた歌唱力も。ケイに続く逸材であることも。ただ熱狂的な耀のファンだとは知らなかったけどね。柚希くんのデビューに関しては、僕からの提案。もしかして耀が昔のように曲をかけるようになるかもしれないって思ったから。天才を目の前にして、自分のつくった曲で歌わせたいって思うかな?って。でもそうなるためには、ケイの後釜を匂わせないとでしょ? 柚希くんがそれを受け入れてくれるか、が心配だった。誰かの後釜役になれって、言いにくし。あっさり受け入れてくれたときは驚いた」 「当たり前。桜庭さんと一緒に過ごせるなら、どんな立ち位置だってかまわわない。僕も、ケイの後釜を匂わせて、取り入るつもりだったしね。白井たちへの仕返しのほかに、曲作りをしたくなるようにしろっておじさんに無茶ぶりされてたし。出来ないなら、歌はやめろって。桜庭さんに近づくな、とも言われた。おじさんにしたら、僕は変態野郎だから」  僕は桜庭さんから離れた場所にある椅子に座った。 「長瀬さんは、一度壊れた耀を見てるから。怖いんだと思うよ。ケイのイメージを彷彿させる柚希くんが近くにいて、昔に戻ってしまったら……って。もう本当に、作曲の才能を手放してしまうんじゃないかって。心配していたと思うから」 「なら、なんでおじさんは、僕が移籍しないってわかってるのに、桜庭さんの心を抉るようなことをしたんだよ」 「まあ、それは長瀬さんなりの考えがあったんじゃないかな」  ハルトさんが苦笑して、困った顔をした。  おじさんの読みはまるっきり外れてて、桜庭さんの心を傷つけただけだったけど。良かった。完全に、壊れなくて。  僕の短気もたまには役にたつもんだ。 「じゃ、僕は帰るよ。ハルトさん、桜庭さん、お疲れ様でした」と俺は頭をさげると、ドアに向かって歩き出す。 「柚希、送って……」 「ハルトさんが、桜庭さんに話したいって顔してるから。僕は一人で平気」  僕はにこっと笑ってから、桜庭さんに背を向けた。
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