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柚希side  スタジオを出て、「さむっ」と独り言をつぶやき、コートのポケットに手を突っ込んだ。  寒さ対策兼顔隠しのために用意しておいた帽子とマスクをつけると、顔をあげる。目の前には、黒塗りの車の前に人が立っていた。 「あんたも懲りないねえ」と俺は、白井を見てため息を吐いた。 「あの突然の編曲は耀がやったのかどうか、確認をしに」  僕はフッと笑った。「で?」と僕は、白井の次の言葉を待った。 「キミがスタジオから一人で出てくるってことは、耀が復活した……と、思ってもいいんだろうなあ。耀は夢中になったら、まわりが止めても聞かないから」 「さあ?」と僕は首を傾げた。  あんたに言う必要ねえし。  ハルトさんと桜庭さんが何を話しているか、はだいたい察しはついてるけど。こいつに言えるはずない。言いたくもないし。 「キミを一人にしたことないだろ? 耀は。いつも一緒にいた」 「よく見てんだな、あんた。桜庭さんのストーカー?」  現場が一緒になったのは、今日の歌番組が初めてなのに。前々から知っているような口ぶりだ。腹立たしい。 「天才児を見つけたようだ……っていう情報があったから。事務所で調べてた。隙があれば、こちらに引き入れようと」 「ああ、じゃあ。僕のストーカー」  きもい。移籍する気なんてない。顔も見たくないのに。 「キミの過去が全然、あらえないんだ。どこから来たのか。どういう経緯で長瀬のところに来たのか」 「ライブハウスでバイトしてた。そこに社長と桜庭さん、ハルトさんが来た。で、桜庭さんに声をかけてもらった。その場でハルトさんが演奏して、僕が歌って。事務所に誘われた。それだけ」 「それは知っている。どこの事務所でもそれくらいの情報は入手済みだろう。それ以前の君だよ。高校も、中学も。どこ出身で、親が誰か。全くわからない。調べがつかない」  調べようとしたのかよ。調べてどうすんだよ。耀に近づくな、とでも言いたいのかよ。変態野郎が。 「知ってどうすんの?」  僕の過去は誰も調べられない。YUZUKIとして歌うのは、誰にも話してない。高校の頃は荒れてて、今の姿から想像もつかないよう恰好をしていたから。  公表されてる本名だって、本名じゃないんだから。おじさんと親せき関係だってわからないように変えたし。  そう簡単に足がつかめないようにおじさんが手をまわしてるはず。母さんも、芸能界に入るのをあまりいい顔してなかったしな。母さんの場合は、僕と言う子がいるってバレるのが嫌なだけだけど。  僕の素性を知っているのは、おじさんとハルトさんだけだった。今日、桜庭さんも加わったけど。3人とも僕の素性をバラすような人たちじゃない。 「長瀬が耀のために用意したのかと思って。全てを知ってて、納得して今の場所にいるんだろ? 好条件の移籍を蹴ってまで、ここに留まる理由は……? 耀の才能を再度開花させるためにキミがいる。そう答えが出てしまうんだよ」 「興味ないね。僕はHANTERの曲を歌わせてくれるっていうから引き受けただけ。そこまで歌に興味ない」  僕は首を振った。  こいつに、真実を教える必要なんてない。どうせ、桜庭さんが前のように作曲してほしくないから、僕を脅したいんだろ。
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