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耀side  俺はスタジオの入り口に立って、腕時計で時間を確認した。練習時間をすでに1時間も過ぎているのに柚希がこない。  明日の歌番組の音合わせをして、新曲のデモ作り直しをする予定なのに。連絡がつかない。スマホにかけても、呼び出し音が鳴るだけ。  やっぱり昨日は、ハルトの話を打ち切ってでも一緒に帰っていれば良かった。どうして連絡がつかないのかわからない。  今までこんなことなかったのに。柚希はすぐに電話に出てくれてたのに。どうして今日は。 「耀、たいへんだ」と長瀬が雲行きのあやしい表情をして、入り口の自動ドアを潜りぬけてきた。 「連絡ついた?」 「いや。あのバカ、家に帰るって言ってたんだよな?」 「言ってた」  長瀬が俺の前に立つ。俺は、長瀬をまっすぐに見つめて答えた。  昨日は確かに、家に帰るって言ってた。 「姉貴に連絡したら、昨日は帰ってきてねえって。そんでスタジオの前にある防犯カメラを調べるように警備に連絡したら、柚希が帰ったと思しき時間に。誰かと言い争って、柚希らしき人間がぶっ倒れたって」 「えっ?」  なに……それ?  胸がぎゅうっと何かに掴まれたように痛みを発した。後悔の念が襲ってくる。やっぱり一緒に……と思ってしまう。 「倒れたあとは?」と俺は長瀬の腕を掴んだ。 「路駐してあった車に乗せられて、どっかに……」 「どう、して……」  なんで俺は昨日、柚希を一人にしてしまったのだろう。柚希の家に帰るとしても送って行っていれば。  俺は口元に手をあてて、動揺を隠しきれずに、手先が震えた。  相手は……春臣? 違うと思いたいが。可能性が高い。昨日の歌番組での件がある。  春臣は、柚希が欲しいから。だから、こんなことを? 「大丈夫だ。柚希は強いから」 「でも、倒れたんでしょ? 車に乗せられたんだろ? 何かあったらどうするんだ」 「ほら、あいつは半殺しの刑ができるんだから」 「お前は弱いから。その基準は当てにならない」 「ひどいなあ」と長瀬が苦笑した。  スタジオの前に、赤いスポーツカーが停まると、サングラスにマスクをつけた男が下りてきたのが見えた。  すぐにわかってしまう。サングラスにマスクで顔を隠していたとしても。ヒョウ柄のマフラーを揺らしながら、男が自動ドアを抜けてきた。  長瀬も気が付いて、顔を緩めると「家出野郎が戻ってきやがった」と笑った。 「ケイ……」  俺は長瀬を掴んでいた手を離してから、ケイをまっすぐに見つめた。サングラスとマスクを外したケイが、ぎこちない笑みを送る。8年前は黒いストレートだった髪が、今は少しカールのかかった茶色い髪になっていた。  高級品で身を包んでいるケイは、歌で大成功しているのがわかる。俺はケイから視線をそらすと、「今更、なにしに」と呟いた。
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