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「新しい契約書な。お前がソロで頑張るっていう。たとえ耀にお前が捨てられたとしても、歌い続けて、この事務所のために働き続けますっていう内容な」 「おじさんの奴隷かよ」 「幼いお前のために、父親のフリをして授業参観にいった甲斐があったよ。今、ここで恩返しをしてもらえるとは……おじさんは嬉しい」  おじさんがわざとらしく、涙を拭くような素振りをしてみせる。 「恩返しだと? ふざけっ」 「契約しないの? しないなら、耀とはお終いだな」 「はあ?」 「これから耀は忙しくなる。お前が一般人になるなら、会えずにお互いの鬱憤が溜まって別れるだろ。少しでも会えるように……こちらも配慮したんだが?」  おじさんが眉をくいっとあげて、意味ありげにほほ笑んできた。  くそっ。足元見やがって。僕が、桜庭さんと接点をもつためには、なんでもするってわかっててこれだ。失礼な奴だ。 「わかったよ。契約するよ」 「んー、チョロいな」とおじさんが満足げに笑う。 「む、か、つ、く」  僕はさらっと署名して、おじさんの前に叩きつけてやった。 「耀にもあるぞ。契約書」  おじさんが桜庭さんにも契約書を渡す。が、桜庭さんは首を振って、おじさんに突き返した。 「あ?」とおじさんが不思議そうな顔をしている。 「契約に付け足して。その1、必ず週に1日は柚希と俺が一緒に休みをとれるようにする。その2、休日は呼び出しなし。その3、柚希との同棲は継続、その4、柚希が浮気したら俺は曲を作らない……これを契約書に加えてくれるなら、サインする。このままじゃ、契約はしない。 「……たく。今度は耀かよ」  面倒くさそうにおじさんが、後頭部をガシガシと掻き始めた。「はいはい、付け加えますよ」とボールペンでさらさらと桜庭さんが言った言葉を書いて、再度差し出した。 「浮気したら許さない」  桜庭さんが、僕をちらっと見て、少し怖い顔をした。僕は「するわけない」と返事をして、桜庭さんの唇を奪った。  おじさんがいるのも無視して、ちゅっと音はたてて舌を絡ませる。  やめろ、やめろ……とおじさんが迷惑そうにつぶやき、席を立つ。 「サインして、帰れ! 即刻な」  おじさんがバンっとテーブルと叩いて、その場の空気の流れを変えようとする。僕たちはキスをするのを終わりにして、見つめ合って笑った。 「休日に呼び出すから、こうなるんだ、長瀬」と桜庭さんがぎろっとおじさんを睨んでから、書類にサインをした。  年明け元旦、僕たちの進むべき方向が決まった。新たな門出だ。桜庭さんと一緒に、歩んでいこう。二人で、ずっと……一緒に。 『アイのカタチ』終わり 次ページより、誠一郎×ケイのお話です。
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