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アイのカタチ~誠一郎×ケイ~1

『ちょ……駄目だって』 『いいだろ?』 『駄目。事務所は嫌だって』 『すぐに終わらせるから』 『そうやっていつもおわらな……あっ、だ、めえ。ああ、んぅ』 『声、出すな。バレるだろ』 『だから、嫌だって……言って……ああっん』  嫌な夢を見た。もう見たくもない過去の現実だ。見てしまった過去は消せない。 事務所の社長室で、バンドのリーダーであるハルトと、片思いしていた社長の長瀬さんがセックスをしているところを。  鮮明に受け付けられた映像が、いまだに俺を苦しめている。とくに心が弱っているときに限ってみてしまう。見たくないのに。  ぐっしょりとかいた汗で、パジャマが濡れている。ベッドシーツもかすかに濡れていた。  眠りについてから1時間も過ぎてない。  最悪だ。すっかり目がさえてしまった。この夢を見たあとは、もう眠れない。かといって、病院から処方されている眠剤を飲んでしまえば、翌日の仕事に影響が出る。  ここはもう、諦めて起きているしかない。  冷たい床に素足をついて、布団の上にかけてあった厚手のガウンを肩にかけた。  寝室を出て、キッチンに向かう。急須に入れっぱなしのお茶を、マグカップに入れて、電子レンジにいれた。温かい飲み物を飲めば、少し身体も心も楽になるかもしれない。  電子レンジから温かくなったマグカップを手にとって、カウンターに置いた。カウンターには、白井が置いていったCDがあった。ジャケットに写っている男の子を見てから、俺はため息をついた。 「長瀬の新作だ。マネは耀。バックバンドはハルト率いるHANTERだ」  普段、ライバルになりそうな人間の音楽なんて、俺に教えないし、見せてこないのに。今回は、白井も焦っているのかもしれない。俺よりも、白井が焦っている。 『で? ケイはどうしたいんだ?』 『長瀬さんが……付き合ってくれるなら残る。それが無理なら……』 『お前はそんな中途半端な気持ちで歌を続けていたのか?』 『え? ちがっ』 『移籍すればいい。そんな甘い気持ちでやったって、どうせ売れやしない。うちの事務所にもそんな奴は要らない。出ていけ』  ぐらっと眩暈を起こして、俺はカウンターに手をついたまま、蹲った。  二者択一で迫るつもりはなかったんだ。でも賭けてた部分もあった。もしかしたら、俺を見てくれるかもって。  あっさり、俺は長瀬さんから見放されて、移籍することになった。引き留めても、もらなかった。  付き合えないが、歌は歌い続けてくれって言ってもらいたかった。ハルトと付き合ってるからって。  恋愛と歌を天秤にかけるようなヤツは要らないと言われた。自業自得なのはわかっている。  俺にはもう、歌しか残ってない。だから8年間、必死に前だけを見て歌ってきた。8年も経てば、いろんな気持ちが風化して、忘れられると思ったのに。時間だけが悪戯に過ぎただけで、俺の気持ちは何も変わってない。 「長瀬さんが、まだ……好きなんだ」
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