139 / 141

電話越し15

大和の頭の中は「どういう事だ?」という言葉でいっぱいになった。 一体全体、童貞キラー結衣乃の誕生は何処から?と疑問だらけで混乱するが、そんな様子を見ていた松葉は何か思い出したかのように眉を潜めた。 「…もしかして、あの事かな」 「あの事って?」 すると背後で話を聞いていた仁も気になっていた様子で、小さく溢した松葉の言葉を食い入るように拾った。 ていうか仁はいつまで抱き締めてるつもりだ。 「以前付き合ってた人と…その、そういう雰囲気になって彼と寝たんだけど、次の日から連絡取れなくて。要はヤリ逃げされたって感じなんだけど、彼は恋愛慣れしてて、容姿も格好良くて、口が上手だったから多分騙されたんだろうなと。ショック受けたまま大勢で集まる呑み会でやけ酒しちゃって、ひたすら元カレの文句を言って、これからは恋愛慣れしてない初心そうな童貞の男を捕まえてやる!って叫んでたよーって、次の日に別の友達に言ったって話はあるけど…」 松葉は少し照れたと思えば悲しんだように表情を曇らせたり、どんよりとした暗い表情になったりしながら話し始めた。 「恋愛慣れして格好良くて口上手…」 大和は思い当たる節があって、思わず小声で声にして背後にいる仁をチラッと見ると、仁は大和が何を考えたのか直ぐに理解すると、ムッとした表情で「ひどーい。俺が女の子にそんなクズみたいな事するとでも?そんな付き合いした事ありませんけど」と不貞腐れた様子で告げてきた。大和は「…だよな」と呟いて前を向いた。 仁に当てはまりすぎて疑ってしまったが、冷静に考えても仁がするとは思えないし、そうだったとしたら互いに顔は覚えてるだろう。 「けどその呑み会に河西先生は居なかったわけだし、それに捕まえてやる!って言っても実際に狙ったのは河西先生が初めてだし、何でその事を知ったの?」 「それが噂で回ってきたんだよ。えっと、誰とは言わないけど、地元に帰ってきて同級生とたまたま会ったり…それから聞いたんだ。松葉先生が童貞を狙って、それを奪ったら捨てるって」 大和はこれ以上話をややこしくしないように、木村から聞いたという事は伏せて話した。 「えぇ!?なにそれ!捨てられたの私なんだけど!しかもそんな作り替えられた噂で回ってるって…なんでこんな事が?」 松葉はカッと顔を赤くしながら頰に両手を当てていた。すると、ずっと大和に抱きついていた仁がやっと大和から離れると、神妙な面持ちのまま大和の横へと移動した。 「噂って本当怖いねー。俺の見解になるけど、多分その呑み会とやらで松葉先生が話した内容が人に伝わる度にまるで伝言ゲームで聞き間違えた時みたいに流れちゃったんじゃないかな?そうしたら話の辻褄が合うんじゃない?噂話って結局はその場に居なかった知らない人同士で話したら、何が本当なのか嘘なのか誰も弁解出来ないけど、話題のネタになりそうな話を皆はきっと面白可笑しく話してるだけなんだよ」 確かにそうだ。例を挙げるとネットで書かれている噂話に悩んでいると芸能人がバラエティ番組で笑いに変えて話していたが、本当の事じゃないのにネットの海に流されるのは決して良いものでは無いと思う。 「…どうしてこうなったんだろ。まぁ、私が童貞を捕まえる!なんて言わなければ良かったんだよね。その呑み会で不快に思った人もいたのかも。私も酔ってたし。…ただあんな恋愛慣れして格好良くて口上手な男とは一生ごめんだわって思っただけなんだけどな」 ウッ、遠回しに俺の事格好良くないって言ってるのと同じだ…。ま、まぁ、事実だし、何とも言い返せないけど、それは置いといて。 大和は悲しみに暮れた顔で目を背けた松葉に、慰めるように声を掛けた。 「松葉先生。実は俺、最初は仁の事苦手だったんだよ」 「……え?」 大和の言葉に松葉はゆっくりと大和へと視線を向けた。仁は突然話をし出した大和にきょとんとした顔のまま横を向いた。 「見た通りチャラチャラしてるし、顔は良いし、それでもって女ったらしだし、口は達者だし、自分とは正反対で勝手に気が合わないと思って苦手だったんだ。けど関わってみたら意外と一緒に居ても居心地が良いし、楽しいし、仁の性格を知ってく内に好きになったんだ」 目を丸くしながら聞いている二人に注目され、次に大和が目を伏せるよう恥ずかしがりながら話を続けた。 「…ごめん、なんか惚気みたいな感じになったけど惚気を伝えたいわけじゃなくて、その人が初心だろうが格好良かろうが関係無いと思う。松葉先生と相手のフィーリングっていうか、童貞とかそんなんじゃなくて深く知っていく事が大事っていうか…俺みたいな奴に言われてもって思うけど、結局松葉先生が初心で童貞ってだけで人探ししても、その人自身の本当の中身って分からないから」 「…うん。本当そうだよね。分かってる。ただ私も好きだったから、自暴自棄になってたのかもしれない」 「あ、話変わるけど、松葉先生の歴史の授業、生徒達が分かりやすいって休み時間話してきてた。先生って絵が上手いんだな。歴史上の人物なんていっぱい覚えなきゃいけないものを、教科書だけじゃ分かりにくい所を細かく解説と絵で描いてたのが良かったみたいですよ」 「え。そ、そうだったの?」 「うん。こうやって前準備してるのって生徒達はちゃんと見てるし、俺もそれ聞いて見習わなきゃって思ったし…えっと、これは恋愛とは違うけど、こうやって松葉先生の事見てくれてる人もいるんだし。ごめん、一体何の話って感じだな」 それは本当の話で、休み時間に他のクラスから来た生徒が自慢げに話をしてきたのを大和は印象深く覚えていた。それと同時に自慢げに生徒達から名前を挙げられた松葉結衣乃が羨ましいと思うほどだった。 大和は小さく笑みを浮かべると、松葉も釣られて小さく笑うが、眉を下げて申し訳なさそうに顔を歪めた。 「…お二人に迷惑かけてごめんなさい」 「いいよ。けど俺も、その、童貞詐欺してごめんなさい」 「河西先生が謝るのも何か違う気がするけど。あ、そうだ、資料を渡し忘れてた。…意地悪してごめんね?」 「あ!そうだった。本来の目的だよ!」 とりあえず童貞じゃないという事は伏せておく事にした大和は、資料の存在をすっかりと忘れていて、松葉はプッと吹き出して笑い出した。一体今までの怒涛の流れはなんだったんだと言いたげだった。 すると松葉が大和へ資料を渡すと、横で見ていた仁に目を向けていて、大和は松葉と同様に仁へと目線を向ける。すると仁は何か言いたげに大和を見つめていた。 「どうした?」 「いや?俺の彼氏がカッコいい事言ってたから、また惚れ直しちゃった」 「なんだよ、それ」 仁は先程の大和の言い分の事を言っているのか、ニッコリと笑みを浮かべながら大和の腕を組みながら可愛こ振るのを再開した。 まだ設定を通す仁に大和は苦笑いを浮かべると、松葉は瞬きを数回しながら二人の様子を見つめていた。 「…ラブラブなんだね」 「うん!ラブラブだよ。…そうだ。今から家帰るんだよね?もう夜遅いし危ないから俺らが車で家まで送るよ。見てたらここら辺酔っ払いも多そうじゃん?だから松葉先生が良ければだけど」 「え、でも…いいの?」 「もちろん。逆に女の子置いて帰るのも気が引けるし」 「それじゃ、お願いします」 「じゃ俺は車取りにいくから、二人で待っててね」 そう言って仁は停めていた車の場所へと向かった。すると仁が居なくなると、松葉は驚いた様子で大和の方へと振り返った。 「河西先生の彼氏…私があんな事したのに優しいね?」 「仁はそういう男だから。さっき言ったみたいに女の子が好きで、ジェントルマンだから」 「…そういう所も好きなんだ?」 松葉は大和をニヤニヤと揶揄うように見つめると「…ま、まぁ」と照れ臭そうに呟いたのだ。

ともだちにシェアしよう!