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第2話

「おはよう………」 店から出ようとして、入ってきた狩生(かりゅう)さんとぶつかりそうになり慌てて立ち止まる。 「あっ、おはようございます。狩生さん」 「雪弥か……なんだ……もう帰るのか?」 猫を撫でるように頭をさわさわと撫でられる。 狩生 仁さん、兄の店の従業員さんで、店の猫たちの世話はほぼこの人がみている。 猫の扱いも上手くて、一見無愛想な人だが猫達からは好かれている。 「遅ぇよ仁! 俺、出版社との打ち合わせあるから、店任せたぞ」 兄はバタバタと出掛けて行ってしまった。 「……雪弥この後用事あるのか?……無いなら猫たちの世話を手伝ってくれないか?」 あまり口角の上がらない狩生さんの笑顔を向けられて、 「大丈夫です!!凄く暇です!!是非お手伝いさせて下さい」 ピシリと額に手をあて敬礼をした。 「仁、お前なんで林檎……雪弥君とそんなに仲良いんだよ」 狩生さんの後ろをいそいそとついて行きかけて……忘れてた。 まだこの人、いたんだった。 「……いたのか、皇壱……雪弥はよく来るし、よく手伝ってくれる……」 狩生さんとも顔見知りなのか……2人とも兄の親友だそうだから、この2人が友人でも不思議はないか。 落ち着いた大人な狩生さんとこんな不審な人が友達なんてなぁ……。 「よく来てるの!?俺、今まで会った事ないんだけど!?」 「そりゃあ……鏡弥がバッティングしない様にしてたから……」 「なんで俺だけハブられてんだよ!!仁ずりぃ!!」 騒ぐ国仲さんにまったく動じず、狩生さんは手を洗い、消毒してお世話の準備を始めている。 俺も狩生さんにならって準備をする。 国仲さんもよくみると眼鏡の奥の瞳は切れ長で鼻筋も通っている。 背だって高いし………黙って立ってたら、きっと女の子たちは振り返るだろう……奇行さえなければ……本当に残念なイケメンなんだな……。 「お前を熟知してるからだろ……雪弥に迷惑かけるな」 狩生さんにぴしゃりと言い切られて、国仲さんはうっと押し黙った。 ラン、リド、アキユキ、ニジト、スバル、ハル、モンド……それぞれの子にあわせて、食事を用意して一匹、一匹体調を確認していく真剣な眼差しの狩生さんを見ながら、俺は膝の上にランを乗せてブラッシングをしている……そんな俺を見つめる生温い視線……。 「……国仲さん……お店……戻らなくていいんですか?」 「今日は店休日……大丈夫……」 とろん……と蕩けた顔で見られ続けるのはとても居心地悪い。 ……でもこの後狩生さんと話したいしなぁ……。 狩生さんはゲームに詳しくて……頭も良いし……いろいろ聞きたいんだけど。 兄は親の様な感覚があるので、狩生さんの方が兄弟みたいな感覚で気軽に話せたりする。 国仲さんの視線が何とかならないかと、チラリと狩生さんにアイコンタクトを送る。 「皇壱、鬱陶しい……雪弥に嫌われるぞ」 狩生さんの言葉に大人しくカウンター席に戻っていったが、チラチラ、チラチラこちらの様子を伺ってくる……狩生さん……大変です。 余計に鬱陶しくなりました。 体調チェックが終わった狩生さんは、おトイレの処理の為に奥の部屋へ消えた。 ランのブラッシングが終わり降ろしてやると、ブラッシング好きなリド、アキユキ、モンドが寄って来て順番を争う様に鼻キスをしてくれる。 あぁ〜もぉ〜可愛いなぁ〜!! 持ち上げて顔をグリグリ擦り寄せて遊んでいると……。 ガターンっ!!と大きな音がして、猫達は驚いて逃げてしまった。 静かにしろよと、音のした方を睨むと、国仲さんが椅子ごと倒れていた。 倒れた格好のまま動かないので流石に心配になり側までいって様子を確かめる。 「あの……大丈夫ですか?」 「俺は……林檎ちゃんは……愛娘で……でも雪弥君……いや……まさか……そんな事……」 国仲さんは顔を手で覆いぶつぶつ呟いている。 あ……これ駄目だ。 狩生さんにお願いしようと体を反転させた時、後ろから引き倒された。 気付けば国仲さんの膝の上で…… 「雪弥君………」 甘いお菓子の匂いに包まれる。 「…………ごめん」 国仲さんの顔が……近づいて…… 近くで見ると、ますます綺麗な顔だなと思う……。 …………………。 「雪弥……何か大きい音したけど……」 狩生さんの声が聞こえて、 ……俺は国仲さんの頬を殴って逃げ出した。
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