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気づかされること_04

 少し拗ねているように見えるけど、何、アイツだけモテるから嫉妬しているのか? 「アイツがモテるのは前からだろう」 「あぁ。だけど、俺がいるのに」  ん、俺がいるのにって、あぁ、そうか、仲がいい友達同士でも嫉妬することはあるか。 「相変わらず仲がいいのな」 「あぁ。付き合っているから」 「なんだって」  聞き間違いかと葉月を見るが、肯定するように頷いて見せた。  まさか、葉月と神野が付き合っているなんてな。所で、俺なんかに話していい訳? 「なんで俺に話した」 「あ? 今のお前は言いふらしたりしねぇだろ」  確かに、葉月の事を敵視していないしな。言いふらすことはない。 「あんなに女子にもてるのに、なんで葉月だよ」 「そう思うよな」  驚いたわ。いったい、何が切っ掛けで好きになったんだろう。  胃袋を掴まれた、とか? 料理、得意みたいだしな。 「あいつはクラスの人気者だ。俺みてぇのがって何度も思ったよ」  そうだよな。神野はクラスの人気者だし、葉月は怖がられていた。  俺だって、どうして総一さんは好きになったんだって思っている。 「でもな、アイツはきにしねぇの。それに強引でな。押されて流されて、そのうち、俺で良いのかって思うようになって。今では何とも思わなくなった」  総一さんもだ。俺がどんな奴だか知っていてもぐいぐいと押してきたな。 「……そうか」  流されてしまえばいい、受け止めるからと、そう両手を広げて待っていてくれた。  俺は、あの暖かで落ち着く場所を自ら手放した。俺がいていい場所じゃないからと。  だけど、傍にいられない事が辛くて寂しい。戻りたいと願ってしまう。 「うっ」  だめだ、望んじゃいけない。だけど、想いが涙と共に溢れて止まらない。 「田中、お前って意外と泣き虫なんだな」  総一さんみたいな事を言うな……。 「それ、大切な人にも言われた」 「もしかして、あの大柄な、えっと橋沼さんだっけ?」 「そうだ。泣いた俺を抱きしめてくれるんだ」 「へぇ。田中、お前にも落ち着く場所があるんだな」  そうだ。総一さんは俺を抱きしめてくれた。  ここにいていいのだと、そういってくれていたんだ。 「なぁ、俺は傍にいて良いと思うか?」 「駄目と言われていないのなら、いいんじゃないか」  あぁ、俺は馬鹿だな。総一さんの気持ちを無視して、勝手にいてはいけないと思い込んで。  俺はスマホをポケットから取り出す。 「美術室に行ってくるわ。後、妬いて一人で食ってねぇで、神野に浮気してるなと言ってやれ」 「余計なお世話だ。ほら、さっさといけよ」 「わかった。ありがとうな、葉月」 「おう、がんばれよ」  と拳をつきだしてきて、俺はそれに拳を合わせた。

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