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Episode1・冥王ゼロス誕生46

「お母さんだ! うわあああんっ、おかあさーん!!」  泣きながら駆け出した女の子を一人の女性が抱きしめました。  あの女の子はやっとお母様に会えたのです。 「コレット、この山に潜むトロールはイスラが倒した十二体で全てですか?」 「いえ、後三体ほど山のどこかに潜んでいる模様です。遭難した人間も五名残っております」 「そうですか。では、このまま引き続き捜索とトロール討伐を」 「――――その心配には及びません。それは私の役目」  ふいに、聞き覚えのある声が割って入りました。  振り向き、その姿に目を丸める。 「あなたは、チェルダ王……」  そう、そこにいたのはチェルダでした。  多くの兵士を引き連れたチェルダは私の前までくると跪く。 「遅くなって大変申し訳ありませんでした。民からの手紙、確かに受け取りました」 「よく来ましたね」 「領地の治安を守るのは領主の役目。領主はそれを放棄した咎により、領地を没収して謹慎を言い渡しています」 「よくそこまで決断しましたね。少し驚きました」  目を丸めた私にチェルダは苦笑します。 「……正直、迷いました。貴族達もこのまま黙ってはいないでしょう。ですが」  チェルダは女の子のつたない手紙を握り締めていました。  その手紙を見た女の子は嬉しそうに「私の手紙だ!」と声を上げ、母親や貧民街の人々は信じがたいものでも見るような顔になる。 「手紙を届けてくれてありがとう!」 「感謝されるようなことは何もしていません。チェルダ王の判断です」  そう言って笑いかけると、女の子は嬉しそうな笑顔を浮かべる。  可愛らしい笑顔です。ずっと泣いていた女の子に笑顔が戻って良かった。 「王に子どもの手紙を?」 「しかも貧民街の子どもの……」 「あのヴェールの人は何者なんだ?」 「一緒にいるのは魔族だろう」  女の子の手紙が王に届いたことに人々がざわめきだす。  俄かに騒がしくなり、コレットが私を隠すように立ってくれます。  魔族に守られる私に、人々はまさかと息を飲む。 「今この国には魔界の王妃様が来てるって聞いてるぞ」 「そ、それじゃあ、あれがっ……」  人々が気付きだし、私はヴェールを深く被る。  そして私の周囲を女官や侍女が囲み、護衛兵が壁のように人々と距離を作りました。  チェルダに同行していた士官が人々に向かって声を張り上げる。 「控えよっ、この御方は名を口にするのも畏れ多い尊い御方である! 今夜のことは緘口令を敷き、これを破った者は厳重に処罰する! 皆、心得よ!」  士官の命令に人々は慌てて跪く。  名を伏せられましたが誰もが気付いてしまったのです。  そんな中、女の子の母親が驚愕した顔で私を凝視していました。 「……あなたは、あの薬師のっ」  王妃になる前の、薬師だった私を覚えている人がいる。  たったそれだけの事なのに、どうしてでしょうね、熱いものが胸に込み上げてきました。  ヴェール越しに微笑みかけると、母親と女の子が手を繋いで深々と頭を下げます。  私もお辞儀して返礼しました。
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