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第17話 藍に乱点(7)

 食べたいものをあれこれ交互に挙げながら、二人で露店の方へ歩き出すと、雷の音が聞こえた。さっきの爆発とこのタイミングから考えて、噴火時に放電が起こる火山(らい)という現象に違いなかった。  暗い空と黒い山肌に蛍光レッドの塗料をぶちまけたように広がるマグマ、その上を白く走る雷光の夜間写真を新聞で見たことがある。その実物を見れるなら見てみたくて、僕は振り返ったが、雷の光も音も確認できなかった。 「純生、早く行こう。雨が降るかも」 「あれ、きっと火山雷ですよ。すごくきれいなんですよ。先輩も見たいと思いません?」 「母に夜食を買ってくるように頼まれたんだよ。今夜は父が飲み会でいないから、ご飯作らないんだって」  浴衣の袖を引っ張っていた先輩は、いつまでも火山を見ている僕にしびれを切らしたのか、僕の手を直に引っ張って歩き出した。その指が熱くて、熱でもあるんじゃないかと先を歩く先輩の顔を見たけど、暗くてよくわからなかった。ライトで明るい露店の前に着くころには先輩の手は自然に離れて、僕もその指の熱さをすぐに忘れた。  そのまま連れ立ってあちこちの店を冷やかし、先輩のお使いの焼きそばと、自分たち用のイカ焼きとはし巻きを買った。はし巻きは箸に巻いたお好み焼きで、普通のお好み焼きより小さいせいか、だいぶお得なのだった。  それから立ち寄った串カツ屋の店先で、熱い油の匂いを嗅ぎながらカツが揚がるのを待っていたとき、ふいにバラバラと露店のテントを叩く音がした。雨にしては大きな音で、同時にあちこちで小さな悲鳴があがる。  テントから手だけ出すと、重くて濡れた砂のかたまりのようなものがてのひらを打った。 「灰雨(はいあめ)ですよ、先輩。しかも粒でかい。最悪」  火山灰混じりの雨は乾けば灰色の跡が残り、普通の透明な雨と違って始末が悪い。浴衣の袖で黒く汚れた手を拭きそうになり、危うく直前で借り物だったと気づいて手をこすって灰を落とした。  すると、先輩が「ごめんね」と言いながら肩を寄せてくっついてきた。僕たちがいた串カツ屋のテントにも、黒い雨を避ける人が押し寄せたのだ。それぞれの店先は狭苦しくなり、たくさんの人が歩いていた通路は無人になっていた。

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