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2 挑発とグルゴーファ1

「グルゴーファっと」  一時間半ほどの見合いを終えて家に帰ってきた一輝は、早々とパソコンを立ち上げて碧が口にしていた薬を検索した。  一輝は近年稀にみる上機嫌ぶりだ。  菅原製薬のホームページに書かれてある薬の詳細をさっと目で追う。 「なんだ、発情抑制剤か」  どんな病気かと構えていただけに気が抜けた。と同時に菅原家では碧にどんな思い込みをさせているのかに興味があった。  製薬会社と飲料会社、まったく接点がない二つの企業の息子が今回の見合いに至ったのは、双方の親の思惑があるからだ。  営業部長をしている一輝には父親の考えが手に取るようにわかっているが、肝心の相手は本当にただのお見合いだと思っているようだ。 「三男だし、高校生だからな。当たり前か」  パソコンの横に置いたままにした碧の釣り書きをもう一度じっくりと眺めた。  碧に言ったことは嘘ではない。  釣り書きについていた写真を一目見た時から彼に興味があった。上品そうに椅子に座った幼さの残る少年に目が離せなかった。大きな瞳に淡いピンク色の唇、アルファの征服欲を煽る容姿をした子だと随分印象的で、絶対に断れない見合いなのにも関わらず一輝は喜んで待ち合わせの場に向かった。  釣り書きには一切書かれていないが、一目でわかった。  この子はオメガだと。  今ではアルファよりもずっと出生率が低くなり、アルファでも巡り合うことが稀となった存在だ。一輝も今まで数人しか会ったことがないが、碧は特異な存在だ。オメガなのにオメガらしさがなにもない。むしろベータと言われたら信じてしまうだろう。  性的なバースなのにその印象が全くないのだ。  もう17歳だというのに反応のすべてが初心だった。  身体だけを成長させた幼子といった印象だ。征服欲と同時に庇護欲までもを芽生えさせる。そのアンバランスさが一輝の関心を奪いつくしていた。  恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯く姿も、緊張してうまくお茶が飲めない不器用さも、薔薇の花に微笑む可愛らしさも、すべて目が離せなかった。なによりも大きな瞳で見つめられた時の興奮は、今思い出しても下半身が暴れ出しそうだ。  釣り書きの写真からずっと気になった存在は、実物を前にしてより一層一輝の興味を持たせる存在だった。  どうせ家同士の繋がりだけのための結婚だと、アルファ同士の偽装夫婦を想定していたから、出会いの場だけ整えて、交際期間ゼロで両家のためだけの結婚式を開き、新婚旅行が終われば家庭内別居に突入という青写真を描いていた。

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