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1 ハイブリッド・ティーローズと約束4

 行ってみたいといつも思っていて、でも言い出せないままでいた。もし行けたらなにを置いてもまずスケッチに走るだろう。そしてもっと大きな絵を描きたい。今は大きくても20号(72.8cm×60.6cm)くらいだが、いろんなものを見たらもっと大きな絵が描けそうな気がする。  でも無理だ。  両親だけじゃなく兄たちもきっと許してはくれない。  だから、それはあくまでも夢。 「連れて行ってあげようか」 「え?」 「碧くんが行きたいなら、私が連れて行ってあげるよ」  驚いて見上げると、一輝がしゃがみこんでいる碧を見下ろし、微笑んでいた。とても優しい表情で。 (凄い、優しそうに笑うんだ……)  見惚れてしまう。  さっきまで見ていたハイブリッド・ティーローズの美しさが思い出せないほど頭の中が一輝の笑顔でいっぱいになる。  ほわんと頬が赤くなる。 「ぁ……でもお父さんとお母さんがなんていうか……」 「ご両親の了解があればいいんだろう。身体に無理のない範囲で連れて行ってあげるよ」 「本当ですか?」 「約束しよう。だからね、このお見合いは継続でいいかな?」 「ぁ……」  そうだ、今この綺麗な人とお見合いをしていたんだ。 「あの……どうして僕とお見合いしてるんですか?」  婉曲に伝えることを知らない碧は、ずっと抱いていた疑問をぶつけた。  こんなにカッコいいならわざわざお見合いなんてしなくても、告白してくる相手はたくさんいるだろう。だって、こんな優しく微笑まれたら誰だって好きになってしまう。自分みたいに……。 「もしかして、お父さんとお母さんが無理やり……もしそうだったら断ってくれていいです! 僕、ちょっと残念だけど受け入れますから!」  強引な両親が、手ごろな相手を無理矢理この場に連れてきたのではないかと危惧した。  いつも碧にぴったりの番を見つけるからと言っていたくらいだ。相手の意志を聞かずに無理矢理この場に連れてこられたと言われても驚きはしないだろう。  なのに、一輝はクスクスと口元を拳で隠しながら笑い、碧がしているのと同じようにしゃがみこんできた。 「碧くんは面白いね。釣り書きの写真を見た時から君に興味があったと言ったら信じる?」  大人特有の言い回しに、適応できない碧は首を傾げた。 「写真よりも実物のほうがずっと可愛いね。良かったら来週、デートしよう」  一輝はずっと大人の余裕を持った優しい笑みを浮かべていた。

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