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3 美術館とバベルと初デート8

「もっと…一緒にいたかったなって……」  この楽しい時間がもっともっと長ければ。門限があるからそれを破ることはできないが、できるなら一分でも一秒でも長く、この人の傍にいたい。まだ二度しか会っていない一輝にここまで自分が心を許してしまうなんてと驚きながらも、それが本音だった。 「まいったな……」  一輝の呟きはあまりにも小さすぎて碧の耳には届かない。 「来週もどこかに行こう。来週だけじゃない、これから週末は二人でいろんなところに出かけよう」 「本当ですか? ……嬉しい」  今日だけで、たくさんの約束をもらった。諦めていた色々を、諦めなくていいと言ってもらった。きっと一輝はなんの気なしに言った言葉かもしれない。それでも、碧には嬉しかった。  一輝がくれた約束が全部、未来へとつながるものだったから。今までぼんやりとしてきた自分の未来が、とても輝かしくなるのを感じるからかもしれない。  詳細はまた追って連絡をくれるというのを信じて、玄関まで送ってくれた一輝にお礼を言った。 「そうだ、これを渡し忘れていた」 「なんですか?」  シートベルトを外す前に重いものが膝に置かれる。 「これ……」  美術館で最後に買っていたものだ。 「今日見た絵と解説が載っているカタログだ。碧くんなら喜んでくれると思ってね」 「一輝さん……本当にありがとうございます!」 「そんなに喜んでもらえたら、私も嬉しいよ」 「あっ、お金!」 「私からのプレゼントだ。貰ってくれるね」 「でも……美術館もお昼も……」 「デートで10歳も年下の子に見栄を張るくらいには稼いでるつもりだ。可愛くありがとうと言ってくれるだけで充分だよ」  助手席へと回りこみ、ドアを開けてくれる。 「また来週。今度は碧くんの行きたいところに行こう」  耳元で囁かれて頬が熱くなる。 「はい……」  内緒話のように、碧も小さい声で返した。  優しい手が頭を撫でてくれる。そして走り去る車が消えるまで見送ってから家に入った。  初めてのデート。  たくさん緊張もしたけど、想像していた以上に楽しくて、さっき別れたばかりだというのに頭の中が一輝でいっぱいになっていた。直視するのが恥ずかしいと思っていた昨日までが嘘のように、今はもっと一輝の顔を見ていたいと思う。もっと一輝と話したいと願う。そして自分の部屋のベッドに腰かけると、貰ったカタログを抱きしめながらもっと一輝といられる時間が長くならないかと思案してしまう。  今日一日を思い返すと、ずっと肩を抱いてもらっていたことに気づく。人込みでも、碧が人にぶつからないようにさりげなく導いてくれていた。まるで本当の恋人のように。 「早く来週にならないかな……」  またあの人に会いたい。  碧は目を閉じ、優しい一輝の表情を思い浮かべながらベッドに倒れた。

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