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4 水族館とあなたの隣とダメな僕3

 だがそれは転じて、菅原家の言いつけを守れということでもあった。  今日は手を出さなかったが次に会うときは大丈夫だろうか。  不安になる。  あんなにも可愛い子に唾を付けることすら許されないなんて……。人込みではぐれないようにと肩を抱いて自分のものだと主張するのが精いっぱいだった。それが一体いつまで続くのだろうか。 (もう早々と結婚を申し込んでしまおうか)  だが玄の人を鼻で笑うような顔を思い出すと、自分だけが碧にのめり込んでいるように見せるのは業腹だ。  もっともっと碧に自分を知ってもらわなければ。もっと好きになってもらわなければ。  結婚の申し込みをしてすぐに返事がもらえるほど、相手の心を掴んでみせたい。  そしてあの無垢な心もなにも知らない身体も全部自分のものにしたい。  手元に残したままの釣り書きをぼんやりと眺めた。  生年月日の欄に碧の誕生日が書かれている。  目指すはこの日だ。  それまで誠実な大人を演じよう。  碧との時間を作ろうと平日はがむしゃらに働き出した。三代目は家業をつぶすの定石にならないよう、ビシバシと部下に鞭を打ち、これからやってくる繁忙期に備える。夏に向けて飲料業界は今が稼ぎ時とばかりに動き出す。一輝も営業部を任されている身として、どんどん仕事に打ち込んでいった。  それもすべて休日に碧との時間を設けるため。  仕事の合間に彼が好きそうなものはないかとネットを駆使し、部下からも情報を集めていく。  そんな一輝を部下一同が遠目で見守っていた。 「部長、壊れたな」 「壊れるなら夏が終わってからにしてくれよぉ」 「諸兄、凄い情報が入ったぞ!」 「なんだ、そのすごい情報って」 「部長の見合い相手、あの菅原製薬のご令嬢らしいぞ。しかも凄い美人、らしい」 「まじか!」 「政略結婚か?」 「部長はマジのめりしてるって噂だ」 「あの部長が? だとしたら傾城の美女レベルってことか」  少し情報がねじ曲がって社内に広まっているとも知らず、一輝は今までにないくらい仕事に励んでいった。次の週末を心の支えにして。  そしてようやく訪れた週末、どこに行くかは碧に任せると伝えた返事は、意外にも水族館だった。  美術館ばかりを調べていただけに一瞬拍子抜けをしたが、ならばと都内からそう遠くない水族館を探す。都内から出たことがない碧のために、少し遠い水族館へと場所を決めた。  前回よりも早い時間に迎えに行くと、碧はすでに玄関で待っていてくれていた。 「待たせてしまって申し訳ない」 「違うんです……楽しみで早起きしちゃって……」

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