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10 目が覚めたら

 高井が笑顔のまま、のたまう。 「さっきやっと指が二本入るまでになって、ようやく安田先輩のいいところを見つけたところなんです! まだまだこれからなので、安田先輩はリラックスして感じていて下さい!」 「いやちょっと待て、色々待て」 「安田先輩のお尻、小尻で可愛いですね」 「んっ」  そう言いながら俺のケツをむにむにと揉む、大型わんこ系後輩。あれ、こいつ本当わんこ系だったっけ? なんか目が俺に絡んできた時の安西なんかよりもギラギラしてないか? 「ちょ、待てっ! 俺のケツなんか触っちゃ駄目だ! というか、ケツの穴に指を突っ込んじゃ駄目だろ! 汚いって!」 「ちゃんと僕の指は洗って、爪も切りました。安心して下さい!」  満面の笑みで頷く高井。 「いやそっちじゃねえ!」 「そっち? じゃあどっちですか?」 「く……っ!」  と、とにかくこの状態はよくない! もう間違いなくセクハラ案件になる。だって俺が前立腺マッサージが何かもよく分からずにやってなんて頼んじゃったもんだから、高井はきっと我慢してこんなことを――と思っていたら、ふと目についた硬そうなモノ。  高井のガウンの前がはだけていて、ボクサーパンツの中で窮屈そうに布を濡らしているのは、どう見たって高井の雄の象徴だった。パンツをはちきれんばかりに押し上げていて、亀頭と竿の形もくっきりと判別できる。……にしても、どうして高井は勃ってるんだ?  俺の目線を追った高井が、照れくさそうに小さく笑う。 「あは、安田先輩の下着を脱がせてから、もうずっとこんな感じで実は痛いくらいで。余裕なくて恥ずかしいです」 「は?」 「僕はいいんです。先輩、前立腺で気持ちよくなりましょうね」  ちょっと待て、ってなんだ、まだって! と言い返そうとしたけど、高井の指の動きが再開した途端に言葉が発せなくなった。 「んんっ!? あっ、まっ」  悶えてありえない喘ぎ声を漏らすことしかできない自分が、信じられない。俺が混乱している間にも、高井はぐっちょぐっちょと俺の中を楽しげに弄り続ける。触れられてもいない俺の陰茎は、いつの間にか勃ち上がっていた。な、なんで。どうしてここが……! 「やっ、待て、高井……っ」  こんな姿、慕ってくれる可愛い後輩に見られたら幻滅されてしまう。 「だめだ、見るな……っ! こんな姿、お前に嫌われたくな――、」 「安田先輩、可愛い!」 「はあ!?」  何を言ってるんだと振り返ろうにも、高井の指の動きはどんどん早く激しくなり、俺は自分の身体を自分の意思通りに動かすことすらできなかった。 「アッ! や、何か変だからッ!」 「安田先輩、イきそうです? あ、勃ってますね。こっちも一緒に触りましょうね!」  しまった、バレた! と思った次の瞬間、高井は尻を揉んでいた右手を俺の股の間に差し込み、躊躇なく俺の陰茎を握る。 「うひゃっ!」  驚きのあまり跳ねると、もしかしてこれは高井の息じゃないか? という生暖かい空気が俺の尻辺りに拭きかかった。ちょっと待てえ! 高井お前、どこに顔を近付けてるんだよ! 「うわあ……! こっちも中も熱くて、堪らない……!」 「ば、馬鹿! お前何言ってんだ! 今なら多分間に合うから、その手を離せっ!」  だけど、高井は頭のネジが一本外れてしまったのか、やめるどころか俺の陰茎を勝手に扱き始めたじゃないか。人の手でなんか勿論触られたことのない俺は、高井の大きな手によってどんどん上り詰めていく。 「やめ……っ、あ、イくからっ、手を離せ……っ」 「僕の手でイッて下さい……!」 「アッ、もうイく――……ッ」  身体の中にあるあまりに気持ちいい所と前とを同時に虐められて、俺は息も絶え絶えになっていた。本当にこのままじゃ、高井の目の前で高井の手でイッてしまう。これじゃもう言い訳なんてできない、俺は高井にそこまで強要したつもりはなかったんだ、ごめん高井、ごめんな……!  高井が楽し気に言った。 「安田先輩、何も心配しなくていいですよ! 僕がいますから、全部僕に委ねて下さい!」 「あっ! ま、待て――!」  じゅぽじゅぽと大きな音が響く中、ゾクゾクゾクッ! という快感が全身を迫り上がってきて。 「――あああっ!」  視界が真っ白になり、あまりの快楽の強さに何も考えられなくなった。ビュッビュッと前から吐き出されていく液体を、何故か高井は手で受け止めている。身体の力が抜けて、こんにゃくみたいにくたりとなりながら、俺は泣きそうになっていた。 「……安田先輩、イケました?」 「う……っ」 「安田先輩?」  不思議そうな顔で、高井が俺の顔を覗き込む。目尻を涙が伝うのを見た瞬間、高井が慌てに慌て出した。 「えっ!? どこか痛かったですか!?」 「ち、ちが……っ」 「ぼ、僕に触られて嫌でしたか!?」 「そ、そうじゃない……っ」  だらりと力が抜けた状態で泣いていちゃ、先輩の威厳もなにもあったもんじゃない。 「お、俺、高井に酷いことをさせた……っ! 俺、そんなつもりじゃ、」 「酷いこと? なにもされてませんけど? むしろ僕にとってご褒美以外の何ものでもないですけど?」 「は?」 「え?」  お互い、キョトンとして見つめ合う。驚いた表情の高井が、ぽつりと尋ねた。 「……まさか安田先輩、僕がマッサージをしろと言われてこんなことをしたと思って罪悪感を感じてたりします?」 「だ、だって俺、まさか前立腺マッサージがこんな場所だとは思わなくて、」 「何となくそうだろうなーとは思ってましたけど、僕は先輩をイかせてあげられて嬉しいです。あと、安田先輩が僕が嫌で泣いてるんじゃなくて、ほっとしてます」 「え? だってこれってセクハラじゃ……」  すると、何故か高井が「ぷっ」と吹き出した後、ケラケラと笑い出す。 「何言ってるんですか。むしろ安田先輩に口実を作ってセクハラしたのは僕ですよ?」 「え? そうなの?」  じゃあ俺、可愛い後輩に強要したセクハラ野郎じゃない?  高井はおかしそうに頷いた。 「そっか、安田先輩は僕が望んでないことをされたと思って泣いてくれてたんですね。やっぱり安田先輩はすごく優しい人で、大好きです」 「お、おお……?」  高井が、手のひらで受け止めた俺から出ていったねっとりした液体を、手のひらを広げてじっと見る。  そして止める間もなく、舐めた。 「――おいっ!?」 「あは、安田先輩の、舐めちゃいました」  俺を見つめる目が、ギラついている。 「な、な……!」  ペロペロと満遍なく舐め取った高井が、同じ手で自分の股間を触った。 「……安田先輩。もっと気持ちよくなってもらいたいです」 「え?」  情欲が込められた眼差しで、高井が俺を物欲しげに見つめる。 「安田先輩。僕、絶対痛くしないって約束します。貴方を天国に連れて行ってあげたい。セックスは安田先輩のお父さんが言っていたような堅苦しいものなんかじゃなくて、もっと楽しくて愛があって気持ちいいものなんだって、僕が教えてあげたいんです……!」 「え、ま、ちょ、意味が、」  高井は、真剣だった。これは冗談を言っているような目じゃない。高井をずっと隣で見てきた俺は、高井がこういう重要な場面でふざけるようなことを言う奴じゃないって知ってる。だからこそ余計に、今何を言われているのか分からなかった。  高井はあれか? 俺が女性とセックスできないと嘆いていたから、それで同情してくれているのか? それとも――。  苦しげな表情の高井が、言った。 「安田先輩、お願いです。僕に貴方を抱かせて下さい」  ――俺は、自他ともに認める波風を立てない穏便派。人との衝突を避けるのが俺だ。  きっと、だからだ。 「は、はい……」  俺がそう答えてしまったのは。

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