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12 うなじ

 高井とのまぐわいは、ひと言でいうと凄かった。  ずちゅずちゅと卑猥な水音を立てて高井の雄が俺の内壁を抉る度に、息苦しさを覚える強烈な圧迫感と共に、あり得ないほどの快感と幸福感が押し寄せる。 「高井……っ、んあ……っ」  俺はとにかく必死で、高井の汗で滑る背中にしがみついていることしかできなかった。それでも何度もつるつると滑ってを繰り返す俺を見かねたのか、高井が抽送を繰り返しつつも俺の背中に腕を回し、キツく抱き締めて安定させる。強く抱き締められると、何故かジ……ン、と身体中が歓喜でゾワゾワした。なんだこれ。俺の身体は変になってしまったのかもしれない。 「誉さん、好きです……っ!」  それはどういった種類の好きなんだ。ずっと親身に教えてくれた尊敬する先輩ってことか? それとも、恋愛的な意味で好きってことだろうか――まさか、だっていくら凡人が集まる第三営業部に所属しているからといって、高井は天下のアルファだぞ? 何の変哲もないただのベータな俺を好きだったなんて、普通に考えてあり得ない。  俺はオメガが出すようなフェロモンも出してなきゃ、男オメガが持つような中性的な美しさとも縁遠いんだから。  勿論、高井が俺を慕ってくれていたのは分かっていたし、俺も高井を目に入れても痛くないくらいは可愛いと思っていた。だからといって、どうして俺は安西とは腰が抜けるくらい絶対に嫌だと思っていたことを、高井とは嫌悪感もなくヤれているんだろう。  高井の考えが分からない。それと同時に、自分の気持ちもさっぱり分からなかった。  うなじを動物のように幾度も舐めながら、「誉さん、可愛い」と囁き続ける高井。  身体の中が全部高井で埋められている感覚に、俺はただ高井の動きに合わせて喘ぐ。 「んっ、ああ……っ、くっ、は……ッ!」  苦しいくらいの強さで俺を抱く高井が、心配そうに耳の横で尋ねる。 「誉さん、痛くないです? 気持ちよくなってくれてますか……?」 「い、痛く、ない……っ、そこ、だめ、変……っ!」  身体全体が膨らんだようなぼんやりとした感覚の中、高井と重なりあっている部分だけがやけに鮮明に感じられた。 「変じゃないです、気持ちいいことですよ、誉さん」  とは言われても、あまりの圧迫感と熱量に、これが気持ちいいことなのかすら分からない。息をすることも難しいこれがセックスなのか。だとしたら、俺は本当に何も知らなかったんだな。  俺はこれまで、手淫しかしたことがなかった。こんな内側からやって来ようとしている何かは、完全に未知のもの。それに対する恐怖に、俺は涙目になりながら高井に訴えた。 「あっ、なんだこれ、変なの来そう、やっ、怖い……っ」  だけど高井は汗まみれの顔を嬉しそうに緩ませたまま、動くのを止めてはくれない。 「誉さん、怖くないです。ずっと僕がいますから、大丈夫ですから」 「ほ、本当か……?」  生理的な涙で濡れた目を高井に向けると、高井が相好を崩した。 「……ふふ、本当です。僕が誉さんに嘘を吐いたことなんてありますか?」 「な、ない……っ、あっ、んあっ!」  じゃあ、とにかく高井にしがみついていれば大丈夫なのか。頭の中がすっかり靄がかったようになっていた俺は、ひたすら安堵を求めて目の前の高井の首に腕を回して頭を抱き締める。――高井にくっついていると、何故か知らないけど安心できた。 「高井、」 「はい、誉さん」  汗ばんだ高井の頭は、熱があるかのように熱かった。高井の雄を身体の中に受け入れてるという訳の分からない状況だっていうのに、何故か俺の中に高井に対する愛おしさがこみ上げてくる。大型わんこな後輩は、いつだって可愛かった。だからきっとこれも、その延長なのかもしれない。  高井が熱い眼差しでじっと俺の目を覗き込んでいるので、俺も見つめ返しながら懇願することにした。  だって、全部塞がれてくっついていたら、ひとりじゃないと思えて怖くないかもしれないじゃないか? 「高井、キ、キス、しながらなら安心、できるかも……っ?」 「――!」  高井はスッと目を細めると、口を開けながら顔を斜めにして俺の口全体を塞ぐ。挿し込まれた舌で、口腔内を蹂躙し始めた。 「んっ、んっ、んんっ!」  ズン、ズン、と高井が俺を突く度に、俺は掠れた声を漏らす。その全ては高井の口の中に呑まれていった。高井の舌があまりにも物欲しそうに蠢くので、俺が応えてやったら少しは喜ぶだろうかとこちらからも舌を絡めてみる。すると高井のキスはもっと深く激しくなり、突き上げと共に俺の視界がゆっくりと白く染まっていった。 「はっ、ん、く、苦し……っ」  あまりの息苦しさに高井の頭を抱き締めていた腕の力を抜いても、逆に高井が背中から回されていた手を後頭部に当てられ、グイグイと押し込まれていく。  高井の腰の動きはどんどん加速していき、最早口が塞がってなくても息をすることすら難しい激しさに変わっていた。 「んんっ、んっ!」  本気で苦しい上にゾワワワッと腹の奥底から絶え間なく快楽が押し寄せてきて、怖い、どうしようといつの間にか閉じていた瞼を開く。すると、すぐ目の前にある高井の瞳が見えた。  高井の瞳孔は開き、俺を見ているようで見ていなかった。  ま、まさかこれ、ラット状態じゃ――。  ひやりと背筋に冷たいものを感じた直後。高井は「ぷはあっ!」と口を離すと、俺の肩を後ろから掴み、ガン突きを始め。 「ちょっ、まっ、高井……っ!」  ガクガクと激しく揺さぶられることしかできていない俺のうなじに、大きな口を開けて犬歯を覗かせた高井が思い切り噛みついたのだった。 ◇  その後のことは、正直もうよく覚えていない。  俺がイッてぐったりとしても高井は一向に収まる気配を見せず、前からも後ろからも何度も執拗に突いて突いて突きまくった。  俺の声はとっくの昔に枯れ、喘ぎ声すらヒューヒューとしか言わない。 「誉さんっ! 誉さんっ!」  高井はがっちりと俺を抱き締めたまま、もう何度出されたか分からない精液で満たされた俺の腹の奥までこれでもかと入り込んでくる。最奥を突かれると臓器が押し上げられるのが感覚で分かって、俺のへその裏あたりまで高井が来ていることに人体の不思議を感じずにはいられなかった。  いくら呼びかけても聞こえている様子がない高井は、どう考えてもラット状態に陥っている。なんだってベータの俺を抱いてラット状態になってしまったのかは分からないけど、このままじゃ俺が死ぬと思って何度も抜け出そうとした。  でも、できなかった。  俺が少しでも拘束から逃れようとすると、高井が泣きそうな声で「誉さんっ!」と叫び、がぶりとうなじに噛みつくんだ。皮膚が破け、血だらけになった生傷に再び歯を立てられて、あまりの痛みに俺の動きが止まる。するとその隙に高井はガンガン突いてから俺の中に熱い液をぶちまけ、一度も俺から出ることなくまたすぐに復活しては再び激しく抱いた。  これが、延々と続けられたんだ。もう、堪ったもんじゃない。俺の意識も、多分何度か飛んだと思う。ハッと気付くと体位が変わってたりしたから。  最早、これが気持ちいいのかどうかすらよく分からなくなっていた。暴力的な快楽を与えられ続け、俺の思考はもうまともに働いていない。俺のモノからは出るものはとっくになくなっていて、それでも高井に穿たれる度に繰り返し絶頂を迎える。  俺は心底不思議に思った。  なんで――? と。  自分の身体は一体どうなってしまったのか。不安に覚える間もなく、声にならない嬌声を上げ続け――。  辛うじて保っていた意識は、今度こそブラックアウトした。

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