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27 補給

 朝陽と付き合うようになってからは、平日の夜は朝陽と電話で就寝前におやすみを言い合っていた。  だから、今夜もあるんじゃないか。習慣になりつつあったからか、それとも俺が朝陽の声を聞きたかったからか、スマホを握り締めながらとろとろし。  朝になって目が覚めた時、着信がなかったことに信じられないくらい寂しさを覚えた事実に、驚いた。  沢山飲まされたんだろうか。だったら今もまだ寝かせておいた方がいいか――?  連絡を入れようかどうしようかと迷っている内に、朝陽からメッセージが届く。自分でも無様だと思うほど安堵すると、メッセージをタップして開いた。  やはり、昨日は終電ギリギリまで捕まってしまい、帰宅時間が遅くなったので俺への電話は控えたそうだ。 「お疲れ様」と「おはよう」を同時に送ると、すぐさま既読が付く。  次のメッセージに「朝、いつもの時間に改札で待ってますね」と書いてあったことで、いつの間にか強張っていた身体の力が抜けた。OKのスタンプを送り、急いで立ち上がる。  俺は何を不安がっているんだろう。朝陽が遅かれ早かれ俺の手から離れるのは分かっていたし、恋人であることに変わりはないのに。  それに――距離感を持って付き合おうとしていたのは俺の方だ。なのに寂しいと感じてしまうのは、いくらなんでも勝手すぎる、と我ながら思う。  もう一度、スマホの画面を見る。スタンプに既読が付いた後は何もない。  もう支度を進めてるのかなと思った瞬間、無性に今すぐ会いたくなった。  急いで支度を始める。いつもは一所懸命真っ直ぐに伸ばす襟足の髪も、今日は何もしないまま小走りに家を出た。  一秒でも早く、朝陽に会いたい。それに俺の予想だと、朝陽もきっと――と思うのは、自惚れすぎだろうか。  駅の階段を駆け上ると、いいタイミングで電車が滑り込んできたので飛び込む。電車内で朝陽にメッセージを送ろうと思っていたけど、混み過ぎてスマホを操作するスペースがなかった。  早く、早く、と何かに急かされているかのように焦りばかりが募る。  会社の最寄駅に到着すると、行列ができているエスカレーターを尻目に階段を駆け上った。何も食べていなくて空っぽの胃の中で、水分だけがタポタポと揺れる。  改札にICカードを叩きつけると、朝陽の姿を探した。どこだ、どこにいる――あ、いた! 柱にもたれかかり、俯き加減でぼうっとしている。雰囲気が妙に暗い。昨晩、第一営業部の飲み会で嫌なことでもあったんだろうか。  朝陽の元に駆け寄る。 「朝陽!」  声を掛けた直後、朝陽が弾かれたように顔を上げた。 「――誉さんっ」  目の下には、あまり眠れなかったのか、薄っすらとだけど隈ができているじゃないか。週末の二日間、俺と過ごして朝まで致して寝不足だったところに加えて、昨日も遅くまで拘束されていたからだろうか。 「朝陽、どうしたんだその顔……っ」  朝陽の目の前に立つと、ここが改札前なことも忘れ、朝陽の目の下に親指を這わせる。 「……誉さん不足で、眠れなくて」  安堵したような弱々しい笑みを浮かべた朝陽を見て、昨日あのオメガの話なんて取り合わずに一緒にいてやればよかった、と激しく後悔した。 「朝陽、今夜……今夜は一緒に、」 「誉さん……」  俺の言葉に、何故か寂しそうな表情で首を横に振る朝陽。え? 「昨日、第一営業部の部長に『暫くの間、補佐として付くように』と言われてしまって……。今夜から、部長の会合や接待に全部付いて行くことになっちゃったんです」 「は? 全部?」  朝陽が悔しそうに唇を噛みながら頷く。 「はい……朝も、部長の早朝ランニングに付き合うことになってしまって」 「はあ!? なんだそれ! お前のプライベートの時間が全くなくなるじゃないか!」 「そうなんですよね……でも周りの先輩も『みんな通った道』だって言われて断れる雰囲気じゃなくて……」  なんて横暴な。効率だなんだと言ってる割に、やってることはまるで昭和だ。  朝陽の表情が、段々と泣きそうなものに変わっていった。俺のコートの裾をちょんと掴み、悲しそうに囁く。 「週末まで誉さんを補給できなくなっちゃいました……」  朝陽の言葉を聞いた瞬間、俺の心臓がキュンと高鳴った。  トボトボと会社方面に進み始めた朝陽の手首をむんずと掴み、眉をキリリとさせて告げる。 「朝陽! ちょっとトイレに行くぞ!」 「えっ?」  唐突な俺の提案に、朝陽は目を見開いた。それでも俺が引っ張ると、素直に後をついてくる。  駅に隣接しているアーケードの通りは、まだ人通りが少ない。小走りで、アーケードの奥にあるトイレに辿り着いた。トイレは比較的新しいからか、中は綺麗で匂いもなく、誰もいない。 「こっち」 「え、誉さん?」 「いいから」  広めの個室に朝陽を押し込むと、しっかり鍵を閉める。  ビジネスリュックを背負った朝陽の背中をドアに押し付けた。迷わず朝陽の少し高い位置にある首に腕を回し、引き寄せる。  ちゅ、と唇同士が触れ合った。  驚いた顔で俺を見下ろしている朝陽に向かって、囁く。 「……こんな所でいちゃつくのは嫌か?」  聞いた瞬間、朝陽の瞳に明らかに情欲が宿る。俺の腰に腕を回しグイッと引き寄せると、朝陽の股間が俺の下腹部に押し当てられた。  息が吹きかかる近さから、朝陽が囁き返す。 「誉さんがいるなら、どこでも構いません」  顔を斜めに傾けると、朝陽がしっとりとしたキスをしてきた。 「誉さん、触れたかった……っ」 「ん……っ、俺も」  舌を絡め合わせては吸うと、荒くなっていく互いの息遣いとくちゅくちゅという音だけがトイレ内に響く。  次第に朝陽の手がスーツのパンツの上から尻たぶに伸びてきたと思うと、後孔と会陰をなぞり始めた。俺は甘えたように体重を朝陽に預ける。  押し付けられている朝陽の中心が、硬さを帯びてきた。俺を求めてくれている朝陽が可愛くて仕方なく思えてきて、自然に朝陽の朝陽に手が伸びていく。 「ふ……っ」  目を開けると、口づけを交わしている朝陽の顔が赤くなっている。はは、可愛い、慰めてあげたい――。  気が付いた時には、口にしていた。 「朝陽、口でシてやる」 「……えっ? でも、」  これまでは、俺がされるばかりで朝陽が俺にしてほしいと求めてきたことはなかった。だから戸惑っているのかもしれない。  そりゃ、最初こそ男同士ということに抵抗はありまくった。だけど俺は朝陽ならいいんだととっくに思っていたんだと思う。  だって、こんなにも朝陽のモノを俺だけが慰めてやりたいと望んでいるんだから。 「ほら、早く」 「わ、え、」  朝陽の前を寛げると、くっきりとした形が浮き上がっているボクサーパンツを上から一度なぞる。 「ふ……っ」  苦しそうな表情の朝陽を見ていたら、ゾクゾクしてきた。朝陽の前にしゃがみ込むと、床に膝立ちして朝陽の陰茎を取り出す。かなり硬くなっているそれの根元を右手に握ると、所在なさげにしていた朝陽の右手を左手で恋人繋ぎにした。  先走りが滲み出てきた朝陽のモノの先端にバードキスを落とすと、頭の上で朝陽が息を呑む声が聞こえてくる。  口を大きく開けると、ぱくりと含んだ。 「――ッ!」  ビクッと震える朝陽の腰。かなりの大きさだから、半分咥えるので限界かもしれない。ジュッポジュッポと顔を動かしながら、懸命に朝陽の雄を扱いていく。  朝陽の左手が、愛おしそうに俺の頭を撫でた。朝陽の温かい手が好きだ。俺はこの手に安心する。朝陽の存在は俺の癒やしで、最早朝陽なしの毎日なんて考えられなくなっていた。 「あ、誉さん……髪の毛が……」  俺の襟足の髪の毛がくるんとしていることに気付いた誉に、目だけで微笑みかける。 「誉さん、エロい……可愛い……っ」  手と口の動きを早めていった。朝陽が高まってくるのが分かる。 「誉さん、僕イキそうです……っ、口を離して、」 「んーん」  軽く首を横に振って否定すると、朝陽が驚いたような、それでいてどこか嬉しそうな微笑みを浮かべた。 「嬉しい……っ、あ、イく――誉さんっ」  宣告通り、直後に朝陽の肉茎が激しく脈打ち、俺の口腔内に熱い飛沫が吐き出される。  苦い、えぐみのある雄臭さ満載の味なのに、朝陽のだと思うとただただ嬉しくて。 「え、誉さん……っ!?」  火照る朝陽の顔を可愛いなあと思いながら見つめつつ、粘つく朝陽の熱をごくりと嚥下した。

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