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運命と番いたい②

 写真を見ながらリュカが足をばたつかせていると隣に座ったディオンが背後からリュカの腰に腕を回した。胸元をリュカの背中に押しつけるように体を抱え込んでいる。 「リュカ」 「なんだディオン。今僕は忙しい」 「アイツらに礼はいらないんすけど」 「ああ、そうか、わかった」  リュカは相変わらずパンフレットに目を落とし、話半分に答えた。 「でも、俺には、礼、欲しいっす」 「ん?」  リュカが顔を上げて首だけで振り返ると、ディオンの黒い瞳が背後からリュカの顔を覗き込むように首を傾けていた。 「礼? なんだ、金か? いくら欲しいんだ?」  その問いに、ディオンは無言のまま鼻先をリュカの顔に近づける。そしてその瞳を薄く閉じかけたところで、リュカの言葉がディオンのその動きを止めた。 「今忙しいんだ。金は後でいいか?」  そう言うと、リュカはまたパンフレットに視線を落とす。  その口元はディオンの行動など気にも止めず、ニヤニヤとオタクの笑みを浮かべている。 「……いっ!」  突然、首筋に痛みがはしり、リュカは体を跳ね上げた。  危うく取り落としそうだったパンフレットを手にしながら、頸を抑えて振り返る。ディオンは悪びれる様子もなく、目を細めてリュカのことを見下ろしていた。 「何をするんだディオン!」  噛まれた頸をさすりながら、リュカは言った。 「ディオン……頸はオメガにとって繊細な部分なんだろ⁈  そこを噛むなんてどう言うつもりだ!」 「べつに」 「べつにって……」 「まあなんか、目の前にあったんで? 噛みました」  ディオンの答えにリュカ呆れて息を吐いた。指でさすったその部分はまだヒリヒリと痛み、心なしか歯形がついたような感触がある。 「そんなに襟ぐりが開いたの着てるから」  一生懸命に体を捻り、見えるはずのない傷口を確かめようとするリュカに、ディオンがボソリとこぼすように言った。 「部屋着なんだから楽なものを着たっていいだろう」  言いながら、リュカは頸を抑えた手を上向けて血が滲んでいないことを確認している。 「っすね」  ディオンがまたリュカの腰に腕を回し、しがみつくように抱き寄せた。手元はスルスルと腰を滑り、またリュカの繊細な部分に伸びていく。 「ディオン、僕は忙しいと言っているだろ」 「ん、そっすね、別にアンタはソレ読んでていいんで」  ディオンの指先がリュカの衣服の裾を捲り上げ、その皮膚を撫でた。唇を首筋に押し当てながら、ディオンは息を吸い込みリュカの匂いを嗅いでいる。 「ディオン、昨日してもらったばかりだから、今日は大丈夫だ。本に集中させてくれ」 「昨日、してないですよ」 「ん? しただろ? コンサートの前に」  リュカはまた首だけでディオンを振り返る。目が合うと、ディオンは意味深に目を細めていた。 「最後までできてないっす」 「ん? 最後?」 「っす。ちゃんと最後までしないと、アレだけじゃ足りてないっす」 「まて、最後とはなんだ?」 「まあ、だから、アンタは何もしなくていいんで……」  言いながら、ディオンの手がリュカの下半身に伸びていく、それが衣服の中に入り込もうとしたその時だった。 --トントンッ  ドアをノックする音が鳴り、リュカは扉に向けて顔を上げ、ディオンはその手をピタリと止めた。 「……はい」  苛立ちを抑え込んだような低い声で、ディオンは扉に向かって返事をする。 「すみません、こちらにリュカ様はいらっしゃいますか?」  メイド長の声だ。おそらくリュカが部屋にいなかったので、ディオンの部屋まで探しにきたのだろう。 「いるぞ? どうした」  リュカはそう答えると、ディオンの腕からすりと抜けて立ち上がり、扉の前に歩み寄る。その胸元にしっかりと楽団のパンフレットを抱きしめていた。  

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