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白百合の章62

*  明澄神社から帰ってきた詠は、調べてきてわかったことを鈴懸と織に報告した。二人とも、屋敷の中にずっと身を潜めていたせいか、気が滅入っている様子である。詠はそんな二人に希望を与えたいとは思ったが……そうはいかない。 「まず、櫨さんのことですが……櫨さんは、死ぬ運命にあった咲耶さんを救ってしまったことにより、地獄の使いとしての規律を破ったという理由で極刑になったそうです。そして、櫨さんは吾亦紅さんと夫婦だったと。……というのは土地神様や妖怪に話をきいたことなのですが」 「櫨と夫婦だった吾亦紅は、櫨が死ぬ原因となった咲耶を恨んでいる……ということか。わからないでもないが……そういう恨みを一々かっていたら、きりがない。織はいつまでも襲われ続けることにならねえか」 「ええ……そうです。織さまが、咲耶さんと誤認される限り、延々と」 「ってなると、やっぱりかざぐるまをどうにかするしかないわけか……どこにいるんだろうなあ、まだかざぐるまを持っている妖怪。見当がつかねえ。……っていうか、そのかざぐるまにくわしい白百合はどこにいったんだ」 「そ、それは……」  ――この場にいるのは、鈴懸と織と、そして詠。詠と共に調査にでたはずの白百合は、いなかった。そのことに疑問に思った鈴懸はじっと詠を見つめたが……詠は困ったように目を逸らすばかり。 「た、体調が悪いって言ってたので、……ちょっと休んでいます。疲れてしまったのかもしれません」 「そうか。じゃああとで話を聞くか」  最後のかざぐるまを持つ妖怪。それは――白百合だ。それも、今までの妖怪よりも強烈な念のこめられた、白百合の心の中で廻るかざぐるま。詠はそれを二人に話すべきだとはわかっていたのだが――言えなかった。白百合がかざぐるまを持っていたとして、どうやってそのかざぐるまを消すというのか。今までとは違って、性交は不可である。白百合の体は、少女のものでそのようなことができる体ではない。そもそも、性交をしたところでかざぐるまが消える保証もない。そうなれば――もっと残酷な、かざぐるまを消す方法をとるしかないのではないか……そう思うと、詠は二人に真実を言えなかったのだ。  詠はばつが悪そうに、うつむいた。今、白百合は、自分がかざぐるまを持っていたという衝撃に立ち直れなくなって、部屋に引きこもってしまっている。いつまでこの事実を隠し通せるだろう……そう思うと、不安で仕方がない。隠していたところで何も解決しないというのがわかっていても、正直に話すことができない。  詠は罪悪感を覚えながらも、最後まで二人に白百合のことを話すことはなかった。何が正解なのかもわからぬまま、ただ、哀しい事実だけに胸を痛める。

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