本気で願った、ハッピーエンド
作品の中に訥々と置かれた、 「 犯した罪は 誰がどうやって負っていくのか、 どこで誰に赦されるのか? 」 という問いかけが錘のようにゆっくりと胸に沈みます。 序盤は少年院を出た青年の障害あるラブストーリーなのかな?という気持ちで読んでいました。 読み進めるうちに、あることから追い詰められた年嵩の彼の、なにかを溜め込んだ態度や冬吾を好ましく思いながらも自分を制御している台詞に引っかかります。 最初は交わされる軽口の間に忍ばされていたワードが、冬吾が内心に近づけば近づくほどに、 切れ味の悪いそれだけに相手に跡を残すナイフのように、冬吾だけではなく読む方の心にも何本もの跡を残していきます。 この残された跡は、冬吾という社会のレールから外れてしまった過去を背負っている若者と自分が同化してしまったのだと気付いたら後はもう、 一人自己完結してしまう相手を、追いかけて追いかけて冬吾が我慢を重ねれば胸が苦しくなるし、冬吾が涙を流して身を引けば唇を噛みしめる痛みまで分かるような状態。 差し込まれるエピソードの合間、 時には合わさり時には自省し離れるも、もどかしくも優しい抱擁と口づけの恋心の交歓は冬吾をしっかりと物分かりのできる大人にしていくのが切ない。 彼の辿々しくも素直に築いていく人間関係に、 どうか相手が冬吾を苦しめるないで、と尖った爪を袖に隠したり、 冬吾が不安定になって築いた関係を壊したりしないでと囲う気持ちに揺らされたりと、 心の中が忙しい読書時間を嬉々として過ごしました。 何故か!終盤。 物語の先行きが不安になり、 この作品がハッピーエンドでもアンハッピーエンドで終わっても、心の中に差し込んだ鈍く光った彩は決して消えないと勝手に心に予防線を張っていましたが、 やはり最後、受け入れ、受け入れられたこの二人の選んだ路に、 穏やかな温もりで心を満たされた自分。 やっぱり、本気で望んでいたのはハッピーエンド、とこの作品の結末に安堵しました。 小説を読む面白さは、 出てくる人物の誰に同化するのか?と自分の知らなかった一面を発見する事でもあります。 私は今回は冬吾という青年に同化しました。 今迄経験のないとても面白い発見でした。 ありがとうございました。 そして、題のセンスに脱帽です。