ぜひ一度読んでみて欲しい。軽いミステリーと切ない心理描写、彩りのイメージが素敵です。
主人公の内面描写から、文芸部の部誌を巡ってのミステリーへと話が動く。そこで微妙に変化していく空気感がウマイ! ミステリーと恋心がリンクして、話が自然に動いていくのもカッコイイ! 暖かみのあるセピア色のような、ちょっと懐かしい空気のある世界の住人はみんな優しい。そんな中ひとり青みを帯びた空気を纏っている海晴。 『明日』を希望と捉えられず、挨拶と言うにも軽すぎる「また明日」のひとことが言えない繊細な少年。怯えるあまり諦めてしまったさまざまなこと。母や友人に向ける乾いた笑みが切ない。誤魔化したような笑いが悲しい。 周囲が暖かいことに苦しさを感じてしまう優しい海晴だからこそ、みんなが優しいのだということに気づかない。頑ななまでに未来は無いと信じる彼の渇きを、暖かい家庭も、優しい友人も、尊敬する先生も、潤すことができない。 そんな海晴の前に現れた颯介は、潤いのある大人の男。枯れた緑色を纏う彼が沈む蒼をかき乱す。優しさだけでは救われなかった後ろ向きの少年には、少しニブい大人の男の強引さが必要だったのかも知れない。 冒頭から折々に落とされる色のイメージが、鮮やかに世界を彩っていく。竜胆の深い紫、インクの青、青朽葉色、シャガールブルー、繰り返される『蒼、蒼、蒼……、』と『青、青、青……、』。 長くないかも知れない未来、けれど瑠璃色に彩られる世界には希望がある。 そして竜胆が、さまざまな意味を持っていることを初めて知りました。