狂い咲きの後にのレビュー
性行為の描写が優れているお話はいくらでも読んできました。
この作品の一風変わっているところは、セックスの後のセックスに注目しているところ。本番と思しき「狂い咲き」の激しさはほのめかされるだけに留まります。
閉会式にこそ開会式以上に憧憬が宿るように、この作品ではおまけとして付属されがちなピロートークに真摯に向き合い、本番以上の人間ドラマを描き出しているのです。
ラストを締め括る「ふいにした」。本来ならばネガティブなイメージがつきまとうこの言葉を、多幸感すら伺える表現として昇華させているあたり、卓越したセンスが光ります。
そしてこのワードセンスは、本文全体に散りばめられているように思います。抽象的な表現が多用されているように感じますが、その言葉を頭の中でイメージするとしっかりその情景が伝わってきます。脳裏にイメージとしてダイレクトに伝わるのですから、単純な言葉の羅列よりもはるかに深く届くのです。
魔性の男・オラシオの魔性っぷりも、ピーターを通じてひしひしと伝わってきます。私は「枯れ」に相当するカップリングは敬遠しがちなのですが、ここまで魅力的な人物なのであれば年齢など些細な問題のように感じてしまいます。それに加え、年頃の子どもがいる中年男性の人となりを、どうしてこうも説得力のある筆致で表現できるのか不思議で仕方ありません。