忘れられない物語
 連載途中からこの小説に出会い、読み始めて以来、更新通知が届けばすぐに飛んで行って齧りつくように読ませてもらっていました。  忘れられないのは、ふたりが旅行先でトンボ玉で工芸をするシーン。旅行先での思い出作りでこういった工芸をされた方も多いと思うのですが、ふたりに寄り添うように、当時の自分の想い出をともに想起し、まるでその場にいるような感覚になりました。  彼らを取り巻く日常感を存分に描写してあるからこその感覚だなあ、なんて思っていました。    野村先生のあぶなっかしさ。表面上はすごく大人なのに、その実本当に頼りなくて、傍にいてあげなくちゃいけなくて、でも傷を癒せるのは想い人の藤田君ではなかった。そのあたりがすごく複雑で、苦しみに耐えきれなくて誰かに縋りたい先生に感情移入したり、もっと自分を見て、自分を頼ってと必死に先生に食らいついていく藤田君に感情移入したり。先生のために手を差し伸べる深沢さんと、深沢さんのことを痛いくらい愛している百合さんにも心を奪われたり。  四人それぞれに弱さと脆さがあって、だからこそ人間めいていて、目が離せませんでした。ここまで複雑な四角関係を無理なく書いておられ、圧倒されました。  終盤、好きだからこその別れには涙がこぼれました。すごくつらいけれど、藤田君が精神面ですごく成長したのを感じ取れてうれしくも思いました。卒業式のシーンは、桜の香りが漂ってくるようで、トンボ玉の描写もあり、とても好きなシーンです。  十代の頃には一瞬であれど怯んでしまった藤田君が、成長し、先生の傷に触れるところも感慨深くて、卒業式のころに感じた成長より、さらにもう一段階大人になったのだなあ、なんて考えていました。成長や時の流れを感じられて、素晴らしかったです。  話数が100話以上あるのに、中だるみすることなく最後まで目が離せなくて、どきどきして、はらはらしました。  「あなたと、薔薇の下で」の更新を待ち続ける日々はすごく濃密だったように思います。  この物語に出会えて、そして追いかけられて本当にしあわせでした。二人の幸せをずっと、願わずにはいられません。  すごく魅力的だった百合さんと深沢さんの番外編も楽しみに待ち続けたいと思います。  素晴らしい物語をありがとうございました。完結、おめでとうございます