夜間走行のレビュー
高柳祥 様 『3万字までジャンルを問わずレビューをさせていただきます』からきました!  まずは企画へご応募頂きありがとうございます。  そして素敵な作品とその作者様との出会いに感謝致します。    心から惹かれた男に体を許し、全てが初めての経験だった主人公の敏樹。一生をふたりで過ごすと思っていた相手に小っ酷く振られてしまう。その理由は、気持ちが醒めたではなく移ろいだわけでもない。最初から敏樹のことは遊び相手だったというのだ。その後、俊樹は出会い系サイトで樋口に出会う。物語はこの2人に焦点が当てられるのだが、どちらも相手への配慮からなのか踏み込まないまま一年が過ぎる。十代の若さのような勢いはないが、大人ならではの付かず離れずのもどかしさの中で2人の心理描写が丁寧に描かれて物語に引き込まれていく。中盤から樋口の車内で見たものをきっかけに、敏樹の心情に露骨な変化が現れることで、ようやく2人がぶつかり合う。波の立たない人の感情もなければ人生もない。ぶつかり合ってこそ相手を知るのだから。敏樹が臆病なのは、ある意味仕方ないと思う。初めての人から受けた言葉は鋭利な刃物で刺されたようなもの。トラウマになっているのでは?と感じるほどだ。樋口の大人の愛に包まれて敏樹のトラウマという氷が溶けて成長することを願う。作品の魅力は何と言っても、もどかしい2人の大人の掛け合いの中にある危うい儚さだ。