読み終えたばかりだけど、また読みたい
教師と生徒である2人には、最初から甘い時間がそれほどあったわけではなく、また「ページをめくるたびに」という言葉が比喩でもなんでもないほど物語がこちらの予想とは違う展開を見せる場面がいくつもありました。シリアスであり、ハラハラドキドキする物語でありながら、一方で大きな時間の流れに包まれて物語が動いていっているような安堵感も覚えました。お互いを好きになって、すぐに結ばれてもおかしくないほどの気持ちであふれていながら、そうなれない。絶望的な思いを抱えながらそれぞれに年月を乗り越えた2人を結びつけたのは、やはりお互いを思う強い愛情で、幸せな結末に心から喜びの気持ちが湧いてきました。
物語の中で先生が「あなたと、薔薇の下で」という歌を口ずさむシーンがあります。最初にその場面を読んだ時、それが誰の歌なのか知りたくて作者である幸原さんに聞いたところ、それは物語の中にだけ出てくる幸原さんの想像の産物で、実際にある音楽ではない、と教えてもらいました。自作の中に音楽を登場させることもある自分はつい、目に見えるものや存在するものに心を奪われがちで、自由に想像(≒創造)することの楽しさを忘れていたのかも、と自分自身を振り返りました。
思い通りには愛情をはぐくむことのできない辛さと、それでも相手を思う深い愛情、信じる気持ち等様々な気づきをくれる物語です。