『初心【後編】 - はじまりは痛みからだった -』のレビュー
前編と後編がありますが、それぞれ独立した雰囲気の作品です。 前編から後編に至るまでにはっきり描かれていませんが、ある程度想像のつく事件があったことは明らかです。 私小説に近い前編の気持ちの下降から、後編の暖かい大切な人とのやりとりによって気持ちが上向く展開が、かえって残酷な事件が描かれないために、強調されます。 こうした技法は江國香織の詩的な雰囲気を思わせ、作品が本当に伝えたいテーマが心の再生であるとはっきり分かります。 後編はロマンチックな絵空事、とは思いたくない、こういう素敵なことがあってもいい、と読者に希望を持たせる作品です。