物語のカギを握る女性の描かれ方も素晴らしい
義父に慰みものにされていた哀しい過去を持つ洋月は、輿入れしてきた桔梗の上とは表向きは子宝に恵まれなかったという理由で離縁し、現在は桔梗の兄である丈の中将と暮らし幸せな日々を送っている。が、久々に前妻と対面した際、身籠った大きな腹を見せられ祝いの言葉を贈りながらも複雑な心境に陥ってしまう。同性間の恋愛において生殖はありえないことはわかっていながら、「子」という目に見える形で残せるものが何もないことに苛まれるあまり、帰途牛車の中から見えた大きな月に桔梗の膨らんだお腹を重ね、「重たそう」と苦々しい想いを吐き出す。男性同士の恋愛物語において女性の描かれ方はとても重要。本作では、桔梗自身がかつて洋月と暮らした日々の寂しさをいまだに埋められず、あてつけのように意地悪な面を見せる。洋月を沈ませたその悪心が、結果的には中将との絆をより深める結末へと流れつく描写が素晴らしく、情報量も決して少なくはないにもかかわらずコンテストの限られた文字数で(行間も含め)整然と描かれているのも流石。ちなみに「洋」と「丈」は作者の他作品の登場人物ともリンクしており、探してみるのも楽しい。