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パシリから友達へ(以降、攻め視点)

 僕が中村さんのパシリになってから、そろそろ1カ月になる。  中村さんには本当にひどいことをしてしまったので、償うためにパシリとして何でもさせてもらうつもりだった。  けれども中村さんが僕に命じるのは、休日の買い出しの荷物持ちや家の掃除の手伝い、対戦ゲームの相手など、罰にはならないようなささいな用事ばかりだ。  僕にとってはその用事の間は中村さんと一緒にすごすことができるので、罰というよりは完全にご褒美だ。  一回だけ晩酌のビールの買い置きが切れていて、近くのコンビニまで買いに走らされたことがあったけど、それにしたって中村さんは晩ご飯を作ってて手が離せなくて、料理ができない僕を行かせただけで、「学生に金払わせられるわけないだろ」とお金もちゃんと払ってくれたので、あれはパシリというよりは単なるお使いだったと思う。  ただ、僕が楽しみにしていた毎週金曜日の最終バスに乗ることだけは禁止されてしまった。  けどそれも僕が普段は駅までバイク通学をしているのに金曜日だけはバス通学で、駅ナカの本屋のバイトの後しばらく時間をつぶして最終バスに乗っていることを知って「もう最終バスに乗るの禁止な」と言われたのだ。 「そんな無駄な時間の使い方するくらいなら、その分ちゃんと勉強しろよ。  前は俺を見る機会が終バスしかなかったかもしれないけど、今はちょくちょく会うんだからいいだろ」  そう言った中村さんは、たぶん僕に罰を与えるというよりは、純粋に僕のことを心配してくれたんだと思う。  そんなわけで、こんなのでいいのかなと思いつつもパシリとも言えないようなパシリ生活を送っていたのだが、ある日、中村さんが真面目な顔で「ちょっと話があるから、そこに座れ」と言い出した。 「あれからそろそろ一か月経つから、今日で罰は終わりにすることにした。  ということで、お前、パシリは卒業な」 「えっ、そんな……」  中村さんの宣言に、俺は言葉を失う。  パシリを卒業ということは、もう中村さんのそばにいられなくなるということだ。  パシリとして多少の用事を言いつけられることと引き換えに中村さんと共に過ごす時間を得られる夢のような生活が終わってしまうのだと思うと、目の前が真っ暗になる。 「なんだよ、その不満そうな顔は」 「あ、いえ。  はい、わかりました」  不満があるのは確かだが、もともとこれは俺がした痴漢行為に対する罰だったのだから、俺にとやかく言える資格はない。  中村さんがこの関係を終わりにすると決めたのなら、俺は黙ってそれに従うだけだ。 「それで、お前はこれからどうしたい?」 「え?」  どうしたいとは、どういう意味だろう。  罰が終わったのなら、俺はまた中村さんが家の前を車で通るのをちらっと見るだけの生活に戻るしかないのではないのだろうか。 「この一か月、俺と一緒に過ごしてみて、お前はどう思った?  俺を好きだって気持ちは変わらなかったのか?」 「はい、それはもちろんです。  むしろ、今まで知らなかった中村さんの色々な面を見ることができて、今までよりももっと好きになったくらいです」 「あー……まあ、お前はそんな感じだよな。  それで、具体的にはこれからどうしたいんだ。  やっぱり俺と付き合いたいとか思うのか」 「そ、それは付き合えるものなら付き合いたいですけど……」  僕の答えを聞いた中村さんは真面目な顔つきでうなずいた。 「俺の方でも一応お前と付き合えるかどうか考えてみたんだけどな」 「えっ、考えてくれたんですか?」 「あ、考えただけだからな。  今すぐ付き合うってわけじゃないから」 「いえ、それでも十分ありがたいです。  僕、中村さんに嫌われても当たり前のことしたのに、付き合うことまで考えてもらえるなんて」 「まあ、あんなことはあったけど、あの時からお前のことは嫌うというよりは、ほっとけないと思ったし、それにこの1カ月お前を見てきてお前が真面目で本来はあんなことするようなやつじゃないってわかったからさ。  正直言ってまだ付き合うってところまでは考えられないけど、お前とはそこそこ気も会うから、今までみたいな一緒にゲームしたり買い物行ったりするような友達としてならやっていけるかなと思った。  だから俺としてはお前とこのまま友達付き合いしていきたいと思っているんだが、お前はどう思う?  お前が恋愛感情があるのに友達として付き合うことはできないっていうんなら、それは仕方ないと思うけど」 「いえ! 大丈夫です!  友達でお願いします!」  僕が食い気味に答えると、中村さんはちょっと呆れた顔になったが、それでもどことなくうれしそうな様子で「そうか」と言った。  ……よかった、これでこれからも中村さんに会える。  それに僕が友達付き合いをOKして喜んでくれるってことは、全く脈がないわけじゃないよね?  現金なもので、これからも中村さんさんに会えるとわかった僕は、ついそれ以上を期待してしまうのだった。

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