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ちよこれいと
冷えた板チョコを銀紙に包まれたまま半分に割ると、パキンと鳴った。
まとわりついた銀紙を剥いでそのままかぶりつくと、口の中いっぱいに甘さが広がる。
特に甘党というわけではないが、季節のイベントで町中にチョコレートがあふれていると、何となく食べたくなるものだ。
この季節は甘いものが恋しくなる。
バレンタインデー。ケーキ屋に勤める恋人は忙しい。
今はせっせとチョコレートにまつわるお菓子を作っているらしい。
毎日のようにぐったりとした様子で帰ってくるため、恋人にチョコレートを求めるのも気が引けるし、美味しいチョコレートを作り上げる恋人にチョコレートをプレゼントするなんてもっと気が引ける。
しかも『イケメンパティシエのいるお店』などとテレビで紹介されたおかげで今年は特に忙しいようだ。
23時。もうすぐバレンタインデーが終わる時間に恋人が帰ってきた。
「おかえり」
そう伝えてもう一口板チョコにかぶりつき、台所に置いていた夕飯を準備する。
「シケたもん食ってんなぁ」
「そういうのはド定番が一番美味いんだよ」
「こっち食えよ」
小さな箱を投げて寄越され、慌ててキャッチする。
「なんだよこれ」
「俺の店で一番高いチョコ」
リボンをほどくと、中にはオモチャのような色をしたチョコレートが入っていた。
「すっげえ、蛍光ピンクじゃん」
「オーロラピンクって言えよ」
「高いって、売れ残りってこと?」
「バカ。非売品ってこと!」
「……俺のため?」
そう尋ねると、恋人はニヤリと笑い、俺の口の中に蛍光ピンクのチョコを押し込んだ。
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