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第1話
トレビス三兄弟はパラロッサ一族の血を引く三人の若者である。
弟思いで公平な長男のタルティーボ、マイペースだが勉強ができる次男のプレコーチェ、人懐っこく遊び人の三男のトレビーゾ。
長男のタルティーボはいつも二人の弟の奔放な行動の後始末に追われている。
プレコーチェが本屋でため込んだツケの代金を肩代わりしたり、酒場で粗相をしたトレビーゾを迎えに行ったり、一日とて気の休まるときはない。
だが、彼が最も心を悩ませる原因は二人の弟から同時に、かく言うほどに愛されていることだった。
プレコーチェは兄のうずら豆のような小さい瞳とアーチ型の眉、それにマッシュボブの髪型がこの世のどの男よりも美しいと思う。
人間よりも詩と哲学に興味のある彼でも、兄が町の女と話す姿を見るときだけはオナモミの実のように胸がイガイガとうずくのであった。
トレビーゾは兄の滑らかなベビーピンクの肌とスイートピーのように可憐な唇に、かほど愛らしい女はいまいと魅かれてしまう。
港へ荷物を運び込むときは必ず兄を手伝うが、作業をしながら考えることはいつもこの後兄とワインを飲むことだった。
とりわけ陽気になった兄が、彼は好きだからだ。
ある日プレコーチェが学校の仕事を終えて家に帰ると、兄が一人で居間で食事をしていた。
「あいつは今日は出かけたのかい?」
上着をハンガーに掛けながら尋ねると、シチューをすすっていたタルティーボが答えた。
「町へ遊びに行ったよ。あの様子じゃ女と一緒か、酒場で飲んだくれて、今夜は帰ってこないだろう」
それを聞いたプレコーチェの胸の中ではダークチェリーの実がみるみる膨らんでいき、血のように赤い果汁を滾らせて弾け飛びそうになった。
食卓につくと、彼は兄の目をじっと見てこう言った。
「それじゃあ兄さん、今夜は一緒に寝ようよ」
弟の言葉にどきっとしながら、タルティーボはプレコーチェの二重まぶたと長いまつげに覆われた瞳から目を離さなかった。
逆三角の顔に柔らかい栗毛のマッシュの髪型、そしてもっちりとした肌に浮かぶこの瞳に誘惑されると、彼は逆らうことができない。
「いいよ。一緒に寝よう」
兄の言葉を聞いてプレコーチェは視線を外さず兄の手に自分の手を重ね、座った声で言った。
「一緒にお風呂にも入ろうよ」
タルティーボの中で落ち葉を焼く煙のようにむらむらとした情感が立ち上がった。
やがてそれは頭の中で醜いけだものの心に変わり、弟の赤いにきびの浮かんだ頬を舐めるように眺めて、言葉を発した。
「お風呂に入るのは後にしよう」
二人は食事を取り止めて、二階のプレコーチェの寝室へ移った。
ベッドに腰掛けると、プレコーチェはしっとりと湿った表情で兄の顔を見た。
タルティーボは本心を隠し立てせずさらけ出した弟の色っぽい姿に、兄という衣服を脱ぎ捨てた。
そしてチコリの芯は、きゅうりのように硬くなった。
接吻され、服を脱がされ、プレコーチェが隠し持つチェリーの実は充満する果汁でぱんぱんに膨張していた。
ベッドに押し倒されて抱かれるうちに、それは甘酸っぱい香気を放ち、実の底の割れ目から赤紫色の液体を滴らせるのであった。
彼の露草のようにピンと張った肌に包まれた華奢な肩を愛でてやると、うっとりとした目で漏らすようにこう言った。
「ああ、兄さん、頼むから」
子供の頃から勉強が出来て、神童と持て囃されたプレコーチェは、そのまま飛びきりの成績の良さで王立大学まで進み教師になった。
しかし彼は自分に寄ってくる無教養な大人も、軽薄な同級生もみな嫌悪した。
そして女を愛せない自分自身をも嫌った。
だが兄だけは違う。
両親が早くに亡くなり稼業の農園経営を継ぐ傍ら、弟たちを学校へやった。
使用人やその家族にまで目をかける兄の慈しみは五賢帝よりも深いとプレコーチェは思う。
そんな兄に対する慕情に悶え、ごりごりとイボ立つきゅうりの実を絹のように滑らかな舌使いで撫で上げながら、弟は上目遣いに兄を見つめて誘惑した。
タルティーボの心はイラクサの燃え上がるごとく生い茂り、ごわごわと棘立つ茂みを形作った。
弟を仰向けに寝かせて腰を持ち上げると、目の前の割れ目から滴るチェリーの露をしとど舐めずり取って、瓶から取り出した透明な液体で濡らした指で中までいたわってやった。
プレコーチェは堪えきれずにすすり泣くように喘ぎ、ベッドの上でさながら桜の花びらがはらはらと舞い散るがごとく弱々しい姿をさらけ出した。
タルティーボはついに弟をもぎ取って、イラクサの茂みに放り込んだ。
兄が荒い息を漏らしながら茂みの中で暴れ回ると、イラクサは穂先から緑色の味気ない花を咲かせた。
弟もまた若く青臭い瓜の匂いがする兄の身体をむさぼって、棘立つ茂みを柔らかい花の嵐で飾った。
「兄さん、僕はもうだめだ」
そしてプレコーチェは瓜の匂いに溺れて、兄の下で弾け飛んだ。
それを見届けて、タルティーボはじっとり汗で湿った身体で弟を抱きしめながら、めきめきと音を立てて割れた。
「プレコーチェ、お前は狂おしい」
「兄さん、ありがとう、こんな僕を」
プレコーチェの満たされた笑顔を見てタルティーボも安らかな笑顔を見せた。
「兄さん、下へ戻って食事を再開しようか。僕は一緒にワインを飲みたいよ」
「ああ、いいよ。でもその前に、一緒にお風呂に入ろう」
「そうだね、今夜はいっぱい楽しもう」
プレコーチェはそう言って、兄に口づけした。
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