壁ドン。 　イケメンに壁ドンをされた女子は骨抜きになると言われるそれだが、少し冷静に考えてほしい。 　顔は近いわ、威圧感ハンパないわ、逃げられねえわ……めちゃくちゃ怖いぞ？ 　なぜ俺がそんなことを言い出したかといえば、平和な昼休みであるはずの今、現在進行形で平凡代表とも言える俺が学校一のイケメンに校庭で壁ドンされているからだ。 「な、なにか用か？」 「ん？　なにも？」 「あのさ、顔、クッソ近くない？」 「そうかな？」 　皇子柚貴(おうじゆき)、女子生徒からはその見た目と苗字から王子くんと呼ばれているが、平凡男子生徒からは合法王子というあだ名で呼ばれている男だ。もちろん男の嫉妬ゆえ、だ。 　そして今、俺は女子生徒からの嫉妬の眼差しで突き刺されそうである。 「そろそろ離れません？」 「それは嫌だなあ」 　ニコニコと笑っているこのイケメンに殺意がわいてくる。頼む、退いてくれ。このままだと俺は女子に刺される。 「佐藤大輔くん」 「え？」 　驚いた。このイケメンが平凡代表の俺の名前をしかもフルネームで知っていたとは。 「好きだよ」 「はあ？」 　驚いた。いや、まてまてまて。今、俺は飛龍革命の時のアントニオ猪木くらい驚いているぞ。 「なんか、罰ゲームかなんかやらされてんの？」 「違うよ。じゃあ、今度デートしようか」 「まて、まて、まて」 　思いきり皇子を制止すると、皇子は解せぬといった顔で首をかしげた。 「へ、返事も聞かずにデートに誘うんかよ」 「なに言ってんの？」 　あ、やっぱり冗談だったか。なんだよ本気にして損したー！俺がホッとした瞬間だった。 「俺がお前のこと好きなんだからお前も俺のこと好きでしょ？」 　いや、待ってそれおかしいだろ。こいつ、この合法王子、頭ぶっちぎれてるんじゃないのか？ 「好きか嫌いかなら、嫌いだ」 　俺に壁ドンしたまま固まった皇子の腕の下を潜るように外に出たときだった。 「なにあんた王子くんの告白断ってんの？！」 「バッカじゃないの？！」 　その他聞くに耐えない罵詈雑言エトセトラ。 「え？はぁ？！　俺が悪いわけ？！」 「そうよ！　王子くんは、ずっとずーーっと！　あんたの事が好きで、私たちにアドバイスとか聞いてきてたんだから！」 「だから私たちが、王子くんに壁ドンされて告白されたらイチコロって話してさ！」 「なのにそんな断り方するなんて！　この！　デリカシーなし男！」 「なにお前ら自分の趣味でアドバイスしてんだよ！　急に壁ドンとかされたら怖いしなんだよあの俺様感！　感じ悪ぃよ！」 「じゃあ！　あんたはどんなアプローチがいいのよ！」 「俺ぇ？　えっと……普通に、学校帰りとかに遊んで、帰り道にオーソドックスな告白されるのがいいなって思うけど……」 　皇子の取り巻きの女子たちは口々に童貞だとか言い出した。 「佐藤くん！」 　急に皇子が大きな声で俺を呼んだ。 「なに？」 「すまない。俺は自分から人を好きになったのがはじめてだったから、つい、女の子たちに頼ってしまった」 　壁ドン姿勢のまま固まっていた皇子が姿勢をただして俺に向き合う。 「俺のことを知ってほしい。放課後、遊びにいかないか？」 「ま、まあ……遊びに行くくらいなら、いいけど」 　俺がそう言ったとたん、皇子の取り巻き女子たちの拍手の嵐が巻き起こる。 「ありがとう！　放課後、君のクラスまで迎えにいくから！」 　５限目が始まる前のチャイムが鳴ると、爽やかな笑顔を俺に向け皇子はその場を立ち去っていった。 　取り巻きの女子たちは俺を睨みつつも、皇子のあとを追い教室へ戻っていった。 　誰もいなくなった校庭で俺はふと冷静になり、自分が男に告白されたことに気が付いた。 「……マジかよ」 　生まれてはじめての告白は男からだった。 了