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月がとっても青いから

場面、青い葉の間に実が色付き始めた銀杏並木。 身を屈めて何かを拾う青年。 きょろきょろと辺りを見回して、前方のベビーカーを押す女性を追いかける。 女性に追い着き、差し出した手には子供の靴の片方。 女性はベビーカーを確認して、青年に頭を下げる。 青年は女性に靴を渡し、直ぐに振り返り歩き出す。 暗転。 場面、冬枯れの銀杏並木。 青年が枝越しの青空をスマートフォンで撮影している。 胸元で画像を確認したりスマートフォンを空に向けたりを繰り返す。 はっと、正面から近付いてくるスーツの男性に間近で気が付き、道を空ける。 先程とは若干ずれた場所で、再び空に向けてスマートフォンを構える青年。 画像を確認して、ぱあっと満足気に笑う。 暗転。 場面、学生食堂。 青年が右隣の席でスマートフォンを見ながら食事をしている。 左手のスマートフォンを床に滑り落とし、拾う為にこちら側に身を屈める青年。 拾ってからふっと顔を上げて、こちらを見て恥ずかしそうに笑う。 暗転。 場面、大学の廊下。 青年が並んで歩きながら、こちらを向いて身振り手振りで喋っている。 時折楽しそうに笑う。 暗転。 場面、新芽の銀杏並木。 青年が木の下でこちらに手を振っている。 手を下ろし笑顔でこちらに向かって走り出す青年。 ハレーション。 暗転。 場面、黄色く色付いた銀杏並木。 紗が掛かっていてはっきり見えない。 二人の青年が並木道を並んで歩いている。 二人はゆっくり立ち止まり、向かい合って互いに近付く。 二人の姿が重なる。 暗転。 「あれ!」 「しっ。大きな声出すな。」 「ごめんごめん。隣いい?」 「ああ。」 「市立図書館で会うなんて珍しいね。」 「お前は何しに来たんだ。」 「俺は小説はいつもここ。今日は三冊。」 「へえ。どんなの読むんだ?」 「こんな。わりと何でも読むよ。」 「‥‥知らなかった。」 「夜はスマホより本かなあ。」 「へえ‥‥」 「お前は?」 「ん? 論文の資料。」 「学校のがいっぱいあるんじゃないの?」 「難しくない文章のを探してんの。」 「嘘だあ。お前頭いいじゃん。」 「切り口変えたいんだよ。」 「‥‥」 「ん?」 「そんな考え方あるんだ。凄いな。」 「何でもやってみてるだけ。‥‥もう借りたのか?」 「うん。帰るとこだった。‥‥なあ、」 「何。」 「まだ居るの?」 「何で?」 「いや‥‥その、一緒に気分転換しないかな、って。」 「‥‥」 「あ、いいよいいよ。邪魔して悪」 「お前ん家行ってもいいなら。」 「いいけど、家でいいの?」 「とりあえず借りてくる。待ってろ。」 「ああ。」 「うわ、外、寒っ!」 「もう少し食って肉付けろよ。」 「食っても太れないんだよ。」 「‥‥ほら。」 「マフラー! 貸してくれんの?」 「早く巻けよ。」 「‥‥うわぁー。あったかーい‥‥」 「飯もお前ん家で食っていいか?」 「いいよ。‥‥あ、けど何も無いや。」 「スーパー寄ってくか。」 「今日は惣菜5パー引きだっけ。」 「お、いいな。」 「ついでに団子買おうぜ。」 「団子?」 「今夜、満月だって。」 「へえ。」 「月頭の中秋の名月、見逃してるんだ。」 「‥‥? 満月って月に二度も‥‥あり得るな。」 「二度目のをブルームーンって言うんだってさ。」 「よく知ってるな。‥‥小説のお蔭?」 「いや、黒田が合コンで使うって調べてた。」 「お前は行かないのか? その合コン。」 「どうせ誘われてませんー。」 「気の毒に。」 「誘われても断りましたー。」 「何で?」 「んー、なんで、って‥‥」 「?」 「‥‥。合コンより月見のが好き。それだけ。」 「‥‥ふっ。」 「何で笑うんだよ!」 「え、え?」 「今の格好よかっただろ!?」 「それはない。」 「即答かよー。」 「格好よかった。よかったから、ほら歩け。」 「えー。」 ‥‥ ‥‥‥‥ ‥‥‥‥‥‥

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