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ティーカップ
「嫌ですか?」
彼は滴るような目をして確認をした。
「いえいえ!こういうの初めてだったので…」
やはり自分は子供なのだと改めて自覚したが、その時は萎えた顔ではなく顔を赤く染めていた。
「近くの喫茶店でも、ベンチでもどこでもお好きなところをどうぞ。」
紳士に対応してくれる姿は微笑ましかった。人から誘われることが非常に嬉しかったのだ。
「あ…じゃあ喫茶店で。抹茶のお菓子が食べたいです。」
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「俺、阿部祐一郎と申します。君は」
(あべ ゆういちろう…)見た目も素敵で名前も若々しいが貫禄のあるような格好良い名前に感じる。
「林秀秋(はやしひであき)って言います。ところで、阿部さんは葉を見て考えていたんでしょうか。樹系図がって言っていましたが」
場所が落ち着いた所で私は一番の疑問を問いかける。
「俺IT系の仕事してるんだよね。だからインスピレーションというか。それを求めてた。」
淡々と答えていく姿に落ち着いた。インスピレーションか。そうか。
「そうだったんですね。何か良い考え思い付きましたか?」
「まぁ、良いもの見つけたって感じかな」
少し疑問が残る返答だったが、あまり気にしすぎるのも良くないのだろうと考えつつも問いかけてしまう。
「良いもの?」
「あぁ。林くんはどうして街の中を歩いていたのかな。見た感じ不良にも見えないけど・・・」
返ってきたのは相槌だけだった。続いて返ってきたのは私への問いだった。
「言いづらいですが、お医者さんに治療のために散歩するように言われて歩いてたんです」
非常に答えづらく、おどおどしながら答える。私の顔は少し冷めていた。
「そうだったのか。治療はどう?進んでる?」
疑問を抱かない普段通りの表情で紳士な対応をしてくれることに少し私は安堵した。
「はい!少しずつ変わっています。」
調子がついてきた。しかし、元々一途な自分には他の男の人と一緒にいることは罪悪感を感じてしまう。
「それは良かった。心の病を治すのは時間が必要だからね。」
返事の中には私が引かれるのを恐れたからか言いたくなかった単語が入っていた。相手は分かっていたそうだ。
「あ・・・やっぱり分かってたんですね…」
「分かるよ。俺も似たような事があったからさ、病気ってわけじゃないけど。見るもの色んなものに全く興味がなかったからさ。林くんはどうなの?林くんの事もっと知りたいなぁ」
ちらりと見えた彼の情報が耳に残る。興味が無いというのはどういう感情なのだろうか。私は返答に困ったが自分の事を言うようにした。
「僕はただメンタルが弱いだけで、少し失敗すると怖じけついちゃうんです。どうにかして治さないと将来の事も心配です。」
自分の心の弱さとあのできごとが重なって私は辛かったのだ。心はどん底に落ちて、口を開いて喋ることも無かったくらいだ。今でも十分螺旋のように苦しい感情が回っている。
「学校は切羽詰まることがたくさんだからね。この状態だと相談できる人も限られるよね。そうだ、林くん、俺と連絡先交換できない?また茶でもしようよ。」
連絡先まで交換してくれるらしい。自分は街で偶然あって初対面の人と打ち解けて連絡先まで交換することも中々無かったので驚きながらスマートフォンを手に取り、黙って交換する。少し大人になれたかな。
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