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繋がることまでは悪いことじゃない

「あ、釣り、楽しかったです。ありがとうございました。」 「良かった。俺も林くんといられて楽しかったよ。」 私は時々出る阿部さんのよく分からない言動にチラチラと視線を配るのだが、彼に気づかれていないだろうか。 悩みが山積する中、一人でも仲良くできる人がいて安心したことは事実なのだ。 「阿部さんって、学生の頃どんな感じだったんですか?」 「俺?うーん。白けてて冷めてる子だったかな。スポーツしていないのに何故か体育の授業ではスポーツ全般中々できたんだよなー。」 クラスに一人はいるよね。スポーツ習っていないのに基本スポーツできる人。 「友達がいないわけじゃないけど、勉強とか目の前のことだけ黙々としてた。それからプログラミングだけは好きで、それも黙々としてたな。親は俺の趣味ができただけで驚いてたけど。」 大体阿部さんの学生時代が想像できた。落ち着いた優等生だ。私は初恋をしてから倒れるくらい勉強を頑張っていた。頑張る理由さえあれば何事もこなせた。ただ相手が相手なのでいつも焦って完璧を目指した。 だから一問間違えただけで落ち込んだり、もう私は初恋は実らないとすぐ諦めそうになったりもした。 「…お仕事大変ですか?」 素朴な質問。 「そうだねー…。すっごいこき使われるよ。まぁ、どこでもそうなんだけど、ITはさ、最初は家に返してもらえなかったよ。」 「えっ!お風呂は…」 咄嗟に驚きながらくだらない自分の質問してしまい、笑われた。 「ははは。そこ気にする?」 「出版社の編集担当みたいにシャンプー持ち込んだりして会社の水道で髪洗ったりしてるやつが多かったかな。俺は近くの銭湯に行ってたけど。」 「ブラッ…」 つい言い出しそうになる。 「おーっと違うぞ違うぞー。こう見えて今はめちゃくちゃホワイトだから。充実してるから。」 中々話が弾んでいることにお互い機嫌が良かった。二人は漁港のコンクリートの道を横に並んで話ながら帰る。 私の表情は今、どうだろうか。 「働くって大変そう。僕は学生だから全然分からないや。」 「俺は好きなことを仕事にできたから楽しいよ。林くんは何の仕事につくのかなー」 「僕はまだ全然見えてこないです。」 「良いんだよ。まだ先の話だし、好きなこと…というか、自分の一部だって思うことをとにかく多く見つけることだね。」 彼はいつも通りの澄ました顔で優しく助言をくれた。こんなに優しい人を周りの人は放っておかないじゃないかな。 でも阿部さんの学生時代を聞いているとさとり世代を感じるので興味はなかったのかな。今は分からないけど…。 駅まで送ってくれるそうで、二人は中央区改札口へ向かう。その時も阿部さんはずっと私を気遣ってくれた。 ーそこまでしてくれなくても他に優しくすべき良い人はたくさん世の中にいるだろうにー そう考えた矢先、自分が初恋の相手に言われた言葉を思い出して悔しくなった。

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