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第92話 side景
「あぁ、君も修介と随分と仲良しなんだねぇ。人の携帯取って勝手に電話に出るなんて」
『はい!仲良しですよ〜、付き合うてましたし!』
僕は嫌味のつもりで言ったのにも関わらず、重村くんはそれに気付いていないようだった。
それに、付き合っていたという言い方、昨日も言っていたなとやはり違和感を感じた。
「ふっ、そうなんだ。じゃあ修介と仲直り出来て良かったね。会えて嬉しいでしょう」
『そりゃー嬉しいですよー!キスもエッチもした仲ですから!』
重村くんのその言葉に、表情が固まった。
一瞬驚いたけれど、僕はすぐに吹き出した。
「へぇ。それはそれは、羨ましい」
『あ。信じてないんですか?藤澤さん』
「ん?」
『ホンマですよ?俺たちそういう関係やったんですよ?高二の頃ですけど』
「……」
『修介から告白されたんですよ?半年も付き合うて無かったですけどね』
重村くんは酔っている。
そんな人が言っている事なんて、八割方デタラメだ。そう思っているのに、やけに冴えた頭がその声を聞き入れてしまう。
『普通信じられないですよね?でもホンマですよ?俺も修介も男が好きなんですから。修介、藤澤さんにはまだその事言うてへんみたいですね?大学とかバイトの友達には言うてあるって言ってましたけど』
僕は何も発さないでいたけれど、確実に胸の内側をチリチリと火が燻り始めていた。
重村くんはこちらの反応を無視して話し続ける。
『おれー、修介に悪い事しました。修介には二番とか三番とか言うて。だから、罪滅ぼしじゃないですけど、もう一回やり直したくて……今度はちゃんと修介だけと付き合おうと思っとるんすよー』
「……」
『だから藤澤さん、俺たちの事応援して下さいよー!俺、付き合うてた人に酷い振られ方して傷心して』
僕は重村くんが話してる途中にも関わらず電話を切って、そのまま呆然とした。
真っ暗になった画面を見つめる。
二番?三番?
彼は何を言っていた?
修介が、重村くんと恋人同士だったって?
男が好きで、それを僕だけにはまだ言ってないって?
――修介と、またやり直したい、だと?
僕はスマホを強く握り締めてから立ち上がった。
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