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第204話 side景
「かんぱーい」
桜理がゆるく言うと、タケは早速スマホを手に宙に掲げた。
「ねぇっ、インスタあげてもいい?」
「ダメっつってもどうせあげんだろ」
「はいチーズ!」
タケは僕と桜理を無理やり手で引き寄せる。
カメラを向けられると、無意識に顔を作ってしまう。僕もグラスを掲げ、にこりと微笑んだ。
タケはイェーイと無邪気に笑いながら何枚か撮り終えると、慣れたようにスマホをサクサクと操作した。
「ありがと!だって二人と写ってるの載せるとファンが喜ぶんだもん。この前のも仲良しだってスマホのニュースに出たし」
「よくもまぁ飽きずに毎日毎日アップ出来るよなぁ。そんなのマネージャーにやらせときゃいいんだよ。俺、そういうの超面倒くせぇ。景もそう思わない?」
「でも偉いよ。タケ、どんなに忙しくても毎日欠かさずやってるし。どんどんフォロワー数増えてて、ファンからの評判も良いって宮ちゃんが言ってたよ」
「えー、宮ちゃん元気にしてる?相変わらず子供の写真見せてくんのー?」
「うん。相変わらずだよ」
僕らはお互いの近況を語り合う。
とりとめのない話をしながら程よく酔いがまわって上機嫌になってきたところで、桜理がスマホに視線を落としながらポツリと呟いた。
「なぁ。来週あたり、暇だったら三人でどっか行かね?」
僕は何も言わずに出された店主のおススメ料理を黙々と食べる。
やっぱり店主の腕は最高だ。
店主は富山出身だから、そこの素材を活かした料理をするのが得意で、それに合う日本酒も多数ある中から選んでもらえる。
素晴らしい。あとで作り方を訊いてみよう。
無反応な僕の変わりに、頬を紅く染めたタケは無邪気に頷いた。
「いいよ、何処行くー?キャバクラ?」
「は?おめーじゃねぇんだからそんな所興味あっかよ。もっとさ、遊べる所行きてぇな。ビリヤードとか」
「あっ、久々にビリヤード行きたーい。オレは水、木なら空いてる」
「お、マジで?俺、木曜が都合いいな。景は?」
「ん?来週?」
木曜日って、何か用事が……
あぁ、修介と会う予定だ。
「ごめん。僕はパス」
「えー。残念。仕事?」
タケは唇を尖らせる。
「仕事じゃない」と素直に伝えたら、タケは花の蕾がパアッと開くように目を見開かせて、桜理の腕を何度か叩いた。
「そう、そうそう!今思い出した!桜理っ、景ちゃんには好きな人がいるみたいだって佐伯さんが言ってたよ」
「え、マジで?お前が他人にそんな事言ってんの珍しいじゃん。誰?最近人気が出てきたS事務所のⅮカップ癒し系グラビアアイドルか?」
「うわっ、ありえるー!あの子の雰囲気ちょっと南さんに似てるもんね!」
いつもこの二人はこんな調子でうるさい。
でも憎めないというか、一緒にいて気が楽というか。
それに、僕が気が合ってつるむ奴って昔から何故かこういうタイプなのだ。
僕はニコリと微笑んだ。
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