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第327話*

* * * 「んっ……ん、んっ……」 枕に抱きつくようにうつぶせになっていると、背中を生暖かい舌先でゆっくり撫でられる。 打ち上げられた魚のようにピクンピクンと体を跳ねさせると、景はクスっと笑って俺の肩甲骨のあたりをぺろりと舐め上げた。 「あっ……ん……」 「なんか今日敏感だね、修介。久し振りだからかな」 揶揄うように言って、今度はそこに歯を立てる。 やっぱり食べてるんじゃないかと思うくらい、ちゅ、と音を鳴らしながら背中じゅうを甘噛みしていくから、枕を持つ手にますます力が入った。 「ふぁ、あ、ぁっ」 「……ねぇ修介。痕、つけてもいい?」 「ぇ……あ、あと……って?」 肩越しに景を見ると、優しさと情熱を半分同居させたような瞳をしていて、ドキっとした。 そんな事を訊いてきたのは、たぶん初めてだ。 きっとさっきの喧嘩のせいだろう。 爪先だけでうなじをすーっと撫でられたから、また喉を鳴らして体を捩らせたあとに「ええよ」と小さく言った。 景は俺を仰向けにする。 抱いていた枕はすぐにベッドの下に落とされてしまった。 なにも縋るものが無いから、景の腕にしがみつく。 キスをした後に顔をずらされて、鎖骨と胸の突起のちょうど中間くらいの場所で唇を押し当てられたから、そっと目を閉じた。 結構痛く吸われて、生理的な涙が滲んだけど、全然嫌じゃなかった。 もっと付けてほしい。 一生このまま、景の証が消えないように。 「ごめんね、ちょっと痛かったかな」 景の優しい声が降ってきたから目を開けてその個所を見ると、ちゃんと鬱血痕が出来ていた。 そこに手を這わせると、すごく嬉しい気持ちになった。 「ううん。ええよ。ちゃんと服着たら隠せる場所に付けてくれたんやね」 「本当は見せつけて牽制したいけどね。一応」 「なんや一応って」 「修介は?僕に付けてくれないの?」 「え……付けてええん?撮影あるんやないの?」 「裸になる仕事は当分無いから。思う存分付けていいよ」 景の言葉に、胸が躍る。 俺だけの景だっていう証を、体に刻み込めるだなんて。 舞い上がった俺は上半身を起き上がらせて、そのまま反対側に押し倒して景の体の上に跨った。 シーツの中に沈み込んだ景は、虚を突かれたような顔で俺を見上げる。 「あれ、なんだか積極的だね」 「ほ、ホンマは、ずっと付けたかったんよ」 「え、そうなの?それ初耳なんだけど」 「そりゃあ、初めて言うたからね」 「……さっき、自分で『何でも言う』って言ったんだから、これからはちゃんと言うんだよ」 うん、と頷いて、景の胸に唇を近づけた。 嘘を吐いてても、何もいい事は無い。 これからはちゃんと、素直になれるといいな。 キスマークを付けたいとは思っていたけど、付けた事なんてないからどういう風にすればいいのか分からなかった。 とりあえず吸ってはみたけど、俺の吸い方が悪いのか、景の胸にはなかなか赤黒い印が残ることがなかった。

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