446 / 454
第446話 side景
僕は膝の上で拳を作り、一度深呼吸をした。
修介には申し訳無いが、ここは僕の直感で動く事にしよう。
「知っています。お父様はご存知なんですね」
今度はお父様が目を見開く番だった。
きっと、疑惑が確信に変わったのだ。
僕はただの友達ではなくて、修介の恋人だと。
しかしお父様はその事には触れずに話し始めた。
「一度、見た事があるんだ。修介が高校生の頃、同じ制服を着た子と、手を繋いで歩いているところを」
僕はパチパチと瞬きを繰り返す。
高校の、同じ制服着た子と、手を、繋ぐ……?
(重村くんか……)
写真で見た、いかにもお調子者そうなあの男か。
僕が外で手を繋ごうとすると絶対に嫌がるくせに、重村くんとは堂々と手を繋いでいるだなんて。
……あぁ、違う。今はこんな風に嫉妬をしている場合では無い。
とにかく、お父様はそのシーンを見て、修介をこちら側なのだと判断したのだろう。
しかしその事を、修介は知っているのだろうか。
お父様は続ける。
「見た瞬間、正直信じられない思いだったよ。でも、悲観するとかそういった感情は無かった。修介は修介の人生を歩んでいってくれればそれでいい。そうは思うのだが……実際は……」
「修介の事、大切に思っているんですね」
お父様は喉を潤すように酒を流し込み、もう一度僕に向かって言った。
「君に家で挨拶をされた時からそうじゃないかと思っていたが、君はやっぱり、修介の恋人なんだね?」
「はい、そうです。黙っていてすみませんでした」
僕は静かに頭を下げる。
そして、黙っている事にした経緯を正直に話した。
お父様は時折頷いて、そうか、と呟いた。
「確かに、母さんは要注意だな。ネットにうっかり書き込んでしまうとか、やりかねない」
「はい。僕はちゃんと、修介を大事にしていきたいんです。嘘を吐くのは嫌なのですが、二人で一緒にいたいので。すみません、ワガママで」
お父様は少しにこりとして、また分厚いメガネを指で押し上げた。
「俺は、自分の事ばかりしか頭になくて。修介のやりたいようにやらせてあげたいのに、辛い思いや、悲しい思いはして欲しく無くて。何か気の利いた事を言おうとしても、いつも突っぱねる事しか出来なくて。いつまでも子供なのは、親の方だな」
「どこの親もそうだと思います。ちなみに、お父様の不安に思っている事はなんですか?」
僕の親は、何があってもあなたの責任よ、と言って僕を突き放した。
芸能界で辛い事があっても、逃げて帰ってきても家に居場所は無いからねと、笑いながら言われた事もあるけれどきっと本気なのだろう。
修介はよく、「景の家族は何でも話せてええなぁ」と言うけれど、修介の家もとても暖かい。
言葉は少なくても、こんなにも修介の幸せを願っている父親がいる。
「俺の、不安……」
「はい。僕と修介が一緒に住むのは、何が不安ですか?」
ともだちにシェアしよう!