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第80話
「じゃあ、二人とも、ばいばーい!」
「じゃあな」
「また、明日」
弟の迎えがある広瀬は、元気よくさっさと帰っていった。
そんな広瀬をこっそりひと睨みし、勉強道具を片付けていると、
「て、寺島……」
少し探るような声で彼に呼ばれた。
「ん、どうした?」
教科書類を鞄に入れながら彼を見ると、さっきまでの"雅実先生"感は一切なく、いつもの彼がいた。
「えーっと……、なんか、怒ってる?」
「ん?」
彼の言葉に手を止める。
「いや……その……」
言い淀む彼をじっと見ていると、彼がゆっくり喋りはじめた。
「て、寺島さ……、放課後……て、テスト勉強してるとき……、ずっと不機嫌、だった…ろ?」
ソワソワと揺れる彼の瞳。
「俺……なんか、した、かなぁ……と思って……」
不安そうな彼とは逆に、俺の心は満たされた。
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