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第6話
「ぽんたー! ぽんたー!」
外からご主人さまの呼ぶ声がする。よいしょと体を起こし、おぼつかない足で声のするほうに向かった。
「あ、ぽんた。トラくん知らない? トラくんのご主人さまから連絡があってね、海外に行くからってトラくんを養子に出したんだけど、すぐ家出しちゃったらしいの。それを今になって知ったんだって。だからしばらく預かってほしいみたいで……って、ぽんたに言ってもわからないか。ぽんたはおバカだもんね」
おバカだけどなんとなくわかったにゃ。トラは捨てられたわけじゃなかったにゃ。
「にゃーにゃ(よかったにゃ)」
「ん? ぽんたどうしたの?」
嬉しくてご主人さまの足を抱きしめてみたけど、ご主人さまにおいらの言葉は通じない。
「……にゃーう?(本当に?)」
おいらのあとをついてきたトラが泣きそうな声で言った。いつもの自信満々な声と違って、か細い鳴き声だった。トラの言葉もご主人さまには伝わらない。
だけど、おいらのご主人さまは優しいにゃ。
「トラくんよかったね。冬前にうちの子になる?って聞いた時は逃げられちゃったけど、私がトラくんのこと守ってあげないと、トラくんのご主人さまが悲しむの。トラくんはぽんたと違ってお利口さんだからわかってくれるよね?」
トラはもう一度「にゃー」と鳴いてご主人さまの足に体をこすり、おいらの家のあるほうに向かった。
***
「お前、もうユキのことはいいのか」
トラのにおいがおいらの家に染み付く頃、トラがドロドロのご飯を食べながら言った。
トラのご主人さまから、“代金もお礼もお渡しするので、食べさせてあげてほしい”とお願いされたらしい。おいらはカリカリのご飯だけど、トラだけはドロドロのご飯を食べている。べ、別にうらやましくないにゃ。本当にゃ。
「ユキちゃんのことはもういいのにゃ。だっておいらはトラのものになったにゃ」
「ふぅん、お前がいいならいいんだけどさ」
トラはそっとおいらにドロドロのご飯をわけてくれた。
う、う、うみゃーい! 色々な出汁がきいていて、カリカリのご飯や、ねこまんまや、メザシよりおいしかった。
「あ、こら、ぽんた! トラくんのご飯とっちゃダメでしょ! それに、またクッションが臭いので汚れてた。ダメだって言ったのにまた一人でしたんでしょ。まったく、去勢済みなのになんでそんなに盛るのかなぁ」
「にゃーう、にゃうにゃうにゃ!(違うにゃ、ご飯はトラがわけてくれたんだし、精液はさっきトラとした時にお尻から垂れちゃったやつにゃ)」
「乳首も腫らして〜! 炎症起こしたらまた病院行かなきゃいけないんだからね!」
「うう、にゃうん(違うのに)」
おっぱいが腫れてるのだって、トラがしたのにおいらだけ怒られるのはなんでかにゃ。言葉が伝われば、言い訳できるのに。
ご飯を食べ終わり、我関せずと毛繕いをしているトラにパンチをする。お前のせいで怒られたにゃ。
「こら、ぽんた! なんでトラくんのこと虐めるの!」
おいらだけ怒られるのはなんでだろう。
「普段からバカばっかやってるからだろ」
トラがあくびをしながら言った。
―END―
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