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1.『夜桜』

月のない夜に、ひとり桜のもとへ来た。  満開の花びらは、時折はらはらと落ちていく。  堕ちていく。  朽ちていく。  行き場のない思いは、重く苦しく潰れてしまいそうな恐怖に囚われてしまう。  逢いたい。でも、もう……。  あとどのくらい息を繰り返せば、会いに行けるだろうか。  黒い空は誘惑してくる。  けれどそれは許されないこと。生きてと言われてしまえば、生きていくしかない。  たとえ生きる屍になったとしても、生きていく。  最期の言葉は残酷で、現実は非情。    手のひらを意味もなく広ければ、ひとひらの花びらが落ちてきた。  どうしてか涙が零れる。  花びらから、温かな何かが手のひらを通して、全身に行き渡る。  わかってるよ。まだ生きていけるから、心配しないで。  まだ、大丈夫。

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