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疾風(はやて)に乗って鷹が飛ぶ。 空を裂きながら彗星の如く真っ直ぐに飛んでいく姿はいつ見ても美しい。 頑丈な嘴、鋭い目、太く強い首、力強い翼、強健な体、いかなる物も離さない鋭く巨大な釣爪、美しい高鳴。 優雅に帆翔する姿、翼を閉じて急降下する迫力ある姿、猛々しい採食行動。 (すばる)は今し方自分が放ったを見つめながら感嘆のため息をついた。 佐伯昴(さえきすばる)鷹匠(たかじょう)だ。 鷹匠とは鷹を飼育し訓練する職人の事だ。 鷹匠の歴史は古い。 かつては天皇家や徳川家などの大名に仕えて鷹を調教し、狩りに同行する立場だった。 所謂「鷹狩り」だ。 江戸時代幕府や諸藩に儲かられた鷹匠は「鷹狩り」として、猛禽類の狩猟本能を利用し、訓練した鷹と熟練した鷹匠と、猟犬や犬引き、馬と騎馬者、勢子などのチームワークで狩猟を行なっていた。 現代では民間団体により狩猟規制や法律などがあって、いつでもどこでも鷹狩りができるわけではないが昴はと「鷹狩り」をするのが好きだ。 なぜ、まだ二十代前半である昴が、決してポピュラーではない鷹匠をやっているかというと、それは単純に「鷹が好きだから」だ。 そして鷹匠をやっていた父の影響でもある。 幼い頃から鷹と触れ合ってきた昴は自然と鷹匠になることを選んでいた。 特に今、空を急降下している相棒とはかなり相性が良く色んな鷹狩りのイベントでは必ずといっていいほど賞をもらっている。 「亜鷹(あたか)!!」 昴が相棒の名を呼ぶと、それまで急降下するためにすぼまっていた羽を大きく広げて鷹が上昇した。 本来なら鷹を呼び寄せる時は呼子というものを使うのだが、亜鷹は昴の声に反応する。 どんなに遠く離れていても必ず戻ってくるのだ。 澄んだ青空をバックに舞うように戻ってくると、亜鷹は鋭い鉤爪を餌掛(えが)けに絡めて止まった。 「おかえり亜鷹」 昴の左手に止まった亜鷹に声を掛けると、クルクルとした眼で昴をじっと見つめてくる。 「昴、向こうの茂みに野兎見つけた」 亜鷹がしきりに旋回していた方を見ると、僅かだが草むらが揺れているのがわかった。 「小兎?」 「いいや、大きかった」 「向こうにいた鴨とどっちが大きい?」 「兎だよ。丸くてでっかくて太ってたから」 亜鷹はブルブルと羽を震わせる。 「なぁ、獲っていいだろ?」 くるくるとした眼がギラリと光り捕食者の強い眼差しになった。 猛禽類独特の卓越した視力を向けられると、まるで何もかも見透かされているような気持ちになる。 いや、亜鷹にはすでに何もかもお見通しなのだが。 昴は溜め息をつくと、困ったように笑った。 「ダメだよ、今は獲っていい時期じゃない」 昴の言葉に亜鷹は不満げに羽を広げた。

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