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オメガバース・ペットの楽園

 二一六六年、『ペット規制法』が施行された。それまでは闇から闇へと、公然の秘密のように取り引きされていた遺伝子操作のされた人型ペットだが、ついに法の許しを得て、大がかりにペットの繁殖を行う研究所(ラボ)が幾つも出来た。  ペットには三種類の特徴があった。俗にキャットと呼ばれる猫のような耳と尻尾を持つ『イヤー』、俗にユニコーンと呼ばれる様々な形の角を持つ『ホーン』、俗にエンジェルと呼ばれる背中に小ぶりな羽を持つ『フェザー』。  だが、ある程度の知性は持つが利口過ぎず従順で、人間のパートナーとして認められた今、結婚をせずにペットを伴侶とする人間が増え、深刻な社会問題となっていた。ペットは、繁殖能力を持たないのだ。少子化が進むにつれ、ペットをパートナーとする事を規制しようという議論も高まり、研究所(ラボ)では、ある実験が進められていた。     *    *    * 「実験は成功です! 後は、コンスタントにこの『オメガ』を量産できれば……」  クレイグは、ペット研究の第一人者だった。研究に没頭するあまり、生来の輝く金髪は白衣の肩につくほど無精に伸ばされ、陽に当たらぬ白い(おもて)には、金色の無精髭が薄らと生えていた。 「お疲れ様、クリュー。もう何日も寝てないでしょう。休んで良いわよ」  研究所(ラボ)の所長、リーアはクレイグを労る。だが、クレイグは充血したライムグリーンの瞳を擦って、張り切るのだった。 「とんでもない。これから、オメガの観察を始めます。ちょうど発情期に入りますから、まずはオメガ同士を交尾させて、妊娠・出産までを記録します」 「そう。でも、貴方に倒れられたらオメガの研究が頓挫するから、休息は適度に取ってね」 「了解です」  クレイグは心底嬉しそうに歯を見せると、データファイルを手に、研究所(ラボ)内のケージゾーンへと足を向けた。     *    *    *  そこは、言うなれば大型のペットショップのような作りだった。個体別に収容できる檻がズラリと並び、何体かを一緒に出来る大きな檻も幾つかあった。キャンキャン、キィキィといった鳴き声が充満している。その一番奥の複数個体用のケージに向かい、クレイグは中を覗いた。  黒い短髪に琥珀の肌、玉虫色に光る瞳の華奢なホーンが、上半身は裸体、下半身にはスリットの深く入った布が翻る下着を着けて奥の壁にもたれていた。見かけは男性だが、オメガは妊娠・出産の可能な両性具有だ。  一方、波打つ赤毛に碧眼の美しいフェザーが、同じケージの中で、先のホーンと同じ下着の中に手を入れて、自慰に耽っていた。  クレイグは、眉根を寄せる。二体は、発情期真っ只中の筈だ。交尾をさせ、妊娠・出産を記録してこれから市場(しじょう)に流通させようというのに、二体は距離を取っている。  彼が試験管から人工子宮で培養した個体には、すでに名前をつけていた。 「ギィ。どうしたんだい。発情期じゃないのか? マグリスと番うといい」  俯いていたホーン――ギィが、顔を上げる。その玉虫色の美しい瞳は、熱っぽく湿って光っていた。呼吸も浅く、速い。発情期なのは間違いないのに、フェザー――マグリスには、視線を向けようともしない。クレイグと目が合うと、捻れた二角(にかく)の先につけられた、アクセサリーも兼ねた怪我防止用のホーンキャップの房飾りをぶるりと一つ震わせた。  ペットは、種類によって特徴が異なる。イヤーは人間に媚態を尽くすが他種には気紛れな所がある為、この実験第一弾からは外された。ホーンは誠実・寛容な性格で、フェザーは気位が高いが好奇心旺盛で積極的な性格だ。 (この組み合わせなら、上手くいくと思ったんだけどな) 「ギィ? マグリスじゃ、気に入らないのかい?」  注意深く観察眼を光らせ、気付いた事をファイルに書き出しながら、クレイグは尋ねる。答えの返らない問いを。ペットは人型だが属性としては動物に近い為、殆ど言葉を発する事はない。  一向に近付かない二人の距離を見て溜め息を吐き、クレイグはイヤーの投入を考えていた。     *    *    * 「ファッ!!」  ケージにイヤーのオメガ――トリノを入れた途端、盛大に唾を飛ばして威嚇した。元々、イヤーは他種と殆ど馴れ合わない。 「やはり、トリノも駄目か……」  クレイグは残念そうに呟く。ギィの様子を見る為、クレイグはケージの中に入って近付いた。 「ギィ、発情期だろう?」  まだ発情が弱いのかもしれないと思い、クレイグは、ファイルを床に置いてギィの下肢に手を伸ばした。 「……っ」  ギィが息を飲むのが分かる。そこはカチカチに硬く育って、天を仰いでいた。 「おかしいな……充分に発情しているのに」  その時、耳元で囁かれた掠れ声に、肌が粟立った。 「アンタは、好きでもない相手とセックス出来るのか?」 「!?」  仰天してクレイグが顔を上げるのと、ギィが彼に馬乗りになって白衣のボタンを飛び散らせ前を開くのとは同時だった。 「なっ!? ギィ!?」 「俺は、アンタ以外とセックスする気にはならないな。実験したいなら、じっとしていろ」  あっという間にスラックスの前が寛げられ、クレイグの雄にギィがしゃぶりつく。 「アッ、やめ……っあ・んぅ」  研究に没頭し、殆ど自己処理もしていないクレイグは、突然の快感に、声を裏返らせる。生理的に勃ち上がった大きな雄に、下着をつけたままずらして、ギィが腰に乗ってきた。 「よせ、ギィっ!」  最後の理性を振り絞って、クレイグが肘をついて上半身を起こそうとする。だがそれより早く、きゅうきゅうにキツい媚肉がクレイグに絡み付いてきた。発情期のそこは、愛液で潤ってパクリと口を開き、容易くクレイグを飲み込んで追い詰める。 「クリュー……あ・ぁんっ・はぁんっ」  ギィが自ら腰を使い出す。 「や……っ!!」  ギリギリまで溜まっていた精液は、簡単に暴発する。ナカを熱く満たされる感覚に、ギィが喘いだ。 「すげっ……クリュー、イイっ」  ギィのナカはますます締まり上がって、クレイグを注挿して刺激する。 「あ・あ……っ」  学生の頃から研究三昧で、数えるほどしかセックスをした事のないクレイグが、快感に溺れてしまうのは仕方のない事かもしれない。息を乱し、下から不規則に突き上げると、ギィが大きく仰け反った。 「あっ・あ……クリュー、好きっ……!!」 「ギィ……っ!」  またナカに精液を受けて、ギィも絶頂を極める。折り重なって酷く早い鼓動が共鳴し、肩を喘がせながら二人はしばらく抱き締め合っていた。 「……クリュー」 「……ん?」  心ここにあらずといった風情で、瞳を固く瞑ったまま、クレイグが呻く。その痩せた頬に口付けながら、ギィが言った。 「俺の事、好き? 好きに、なって」  恋愛に免疫のないクレイグはふと目元を赤くして、ライムグリーンの瞳をギィと合わせた。 「う……む……。責任は取る」 「責任とかじゃなくて、好きになってくれ」 「全く……僕は押しに弱いんだ。そんなにグイグイ来られたら……」 「たら?」  クレイグは、耳の先まで淡く染めた。 「好きにならずに、いられないじゃないか……!」  蚊の鳴くような(ささ)やかな音で紡がれた睦言に、ギィが嬉しそうに抱き付いた。 「嬉しいぞ、クリュー! 監視カメラの映像、消すの忘れるな」 「あ、ああ……」 「大好きだ、クリュー」 「私も……きだよ」 「え? 聞こえない、クリュー」 「……だから! 好きだっ!!」  稀に見る知性を備えたギィは、ふふと笑ってクレイグのかさついた唇に、しっとりと柔らかい自分のそれを押し当てた。 (クリュー。俺、アンタの子しか欲しくない)  深くなる口付けに、二人は髪をくしゃりと乱し合って、禁断の恋の始まりを告げるのだった。 End.

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