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二皿目 シャル様が物申す。

「俺はお前のその、美少年なところが気に食わない。可愛すぎる。ふざけるな。俺にも分けてほしい」  確かな口調で憤慨気味に言い放ち、クッと目の前のユリスを睨みつけるのは、俺──シャル。  時はティータイム。  午後のある日だ。  所は、乱雑に積み上げられたたくさんの本や研究道具、魔導具が置かれた、魔王城附属の魔導具研究所本部。  足と腕を組みながらふてぶてしくソファーに座る俺の前で、俺から罵倒を受けたユリスは、額に手を当て深いため息を吐いた。 「重症だね……」 「だろ? 早いとこあの馬鹿魔王にバレる前になんとかしねェと、うっかりもう嫌いだとか言われちまッたら、泣きながら崖下にでも飛び降りるぜ」  俺の横に座っているリューオがため息の返答をしつつめんどくさそうな表情のまま、不躾に顎で俺を指す。  まったく、いつもながら不遜な男だ。  ユリスに隣に座るのを拒否されたからと言ってスネないでほしい。 「距離感が縮まらないぐらいで拗ねるな、リューオ。大体ユリスの研究所に入る為に俺を無理矢理引っ張ってくるような、強引なところがよくない。尖るのは頭だけにしろよ?」 「わぁったから黙ってろよ目ェ据わってんだよオラ」  スネたリューオは俺の頭をパシッと叩くから、ジト目で抗議したが素知らぬ顔だ。  なんだって俺はいつもより多めに叩かれているんだろう。  なんにも悪いことはしていない。  不満たっぷりの俺と雑に扱うリューオを見ながら、白衣姿で渋面のユリスは胡乱げな目をしつつ考え込んでいる様子。 「で? 普段自分対象の負の感情なんて殆ど皆無で、この世の悪意を軒並み抱き込むようなのほほん男が、一体どうして微妙に優しく罵倒してくるわけ? 生易しくて鬱陶しいよ。仕方ないから、さっさとどうにかしないとダメじゃない」 「いや、それがわかんねェんだよ。コイツ連れて行ったらユリスに追い返されねェから封印の鍵的な意味で連れてきたら、門の前で突然〝口の悪いところは早く直せ馬鹿野郎〟とかなんとか言い出して睨んできたぜ」 「まず連れてきてもお前だけ追い返すよバカッ! フンッ。……とりあえずシャルのアホバカは調べてみるけどね」 「つれないところも頼りになるところも最高に可愛くて好きだぜユリス」  リューオの語尾にハートがつきそうなくらい甘い言葉を無視して、ユリスは席を立つと、なにやら魔導具の山を漁り始めた。  冷たい。冷たいところが可愛いのか?  可愛いのはやめろと言ったのに。  そもそもこの二人はいつまでも進展しない。  リューオはいい加減押してだめなら引いてみればいいし、ユリスは心底お断りならさっさと剣でも喉元向けてやめなさいって丁寧に言えばいい。  今後どうなるのかハラハラヤキモキする。心配だ。なぜ俺に心配をかけるようなことをするんだ。  末永く幸せになれあんぽんたん達め。呪術を学んで死ぬまで祝ってやる。  悔しさとヤキモキからギリギリ音をたてて歯ぎしりをすると、うるさいと言ってリューオに頬を揉まれた。  むにゅむにゅするな、酷い。  そういうところがよくないのだ。  不機嫌に腕と足を組んだままむにゅむにゅに耐えて、しばらく後。  ユリスが土台のついた小型の水晶玉を持って、こちらに帰ってきた。  水晶玉からはダウンジングのような角型のアンテナが一つついていて、ユリスが俺にそれを向けると、水晶玉はピコピコカラフルに色を変えていく。  人様に妙なものを向けるんじゃない。  向けますよと言ってからにするんだ馬鹿者め。  しっぺにデコピンとババチョップをされたって文句は言えない暴挙だぞ。 「なんだコレ」 「状態異常検査の魔導具。魔法かかってる可能性高いから……って、出た。もうっこの無警戒ネズミ! 低レベルだけど完璧呪われてんでしょ!」 「ハァ? まじかよッ!」 「俺は(のろ)くない」 「「違う(ちげェ)よッ!」」  一斉に罵倒されて、俺はチッと舌打ちをした。  鈍いだなんて酷い。俺は素早く動ける。  水晶の画面には〝状態:呪い(普段思っている悪口を言う・性格横暴化・気性荒化・攻撃性大)〟と書かれているが、なんの話だかわからなくてフンッと顔を逸らす。呪うのは俺だと言うに。

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