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第27話
きゅーんと効果音でもつきそうな程しょげかえっているアゼルに罪悪感を突かれ、心が痛い。痛すぎる。
俺はうう、といたたまれなくなった。
そしてしばし思案した後──必殺技を使うことに。
「きょ、今日のお詫びに、なんでも一つ言うことを聞くぞ……!」
「……なんでも?」
「んんっ……なんでもだ」
できる範囲になるが……、と付け足す。
それでも対アゼル必殺奥義〝なんでも言うことを聞いてもらえる権〟発行で、アゼルの目にキラキラと光が宿った。
これを理由にすることで、ツンデレのアゼルがツンしなくてもお願いごとをできるのだ。
──……若干早まった気がしなくもないが、背に腹は替えられん。
アゼルの頼みは恥ずかしくなければ、元々なんでも聞くんだがな……。
当人が遠まわしにしか頼めないんだ。
アゼルは腕を組んだまま、踏みつけていた足を下ろす。
そして機嫌良くニヤニヤするのを抑えながら、フンッとそっぽを向いた。
「まぁ、俺は温厚だからな! 別に構わねぇぜ、今日の出来事は綺麗に忘れることにしてやる。トルンは三ヶ月減給。この部屋の修理と片付け、始末書提出。後、お仕置きで目玉一つ貰うか。それで許してやる。シャルに手を出したにしては寛大な対応だろ? フフン」
「!? め、目玉は許してやってくれ!」
「? なんでだ、耳がいいのかよ」
「どうして欠損させたがるんだ。どこかちぎるのを勘弁してやってくれないか?」
温情たっぷりのつもりらしいドヤ顔に、俺は慌てて待ったをかけた。
納得がいかないアゼルの目が痛い。
こんなにも情けをかけまくっているのになにを言ってるんだと、訴えている。
いやだってな、トルンが耳を押さえて死人のような顔になっているぞ。
絶対服従の魔族はアゼルの決定には物申せないが、乗り気じゃないのは明らかだろう。
魔族は魔力があれば回復する者もいるので、にょきっと生えるかもしれない。
それでも痛みはあるはずだ。
だからだろうけれど、元を正せばトルンが生き急いで、アゼルの所有物である俺に手を出したのがイケないんだが……。
全面的に自業自得だが、体の凹凸を毟られるのは可哀想だ。
実年齢はわからないが、見た目もまだ子供だから俺の良心が痛む。
人間の俺の価値観だと、戦闘以外で流血沙汰は避けたいのだ。
まったく、どうして自ら触らぬ神に飛び蹴り食らわせたんだ?
そしてなぜその神を鎮める役目を、俺に丸投げするんだ。
俺の職業は拝み屋ではなく、お菓子屋さん兼魔王の結婚相手である。
職業勇者兼捕虜兼居候の称号はリューオに譲った。
そういう事情でダメダメと首を振る俺に不満丸出しのアゼルは、幼児を宥める保父さんの表情で俺に近寄る。
ソファーの上で体育座りの俺の肩に、ポンと手を置いた。
逆の手でアゼルに貰ったピアスをなでられ、シャラシャラと綺麗な音が鳴る。
逃げ場がない。
アゼルの体越しに、優雅にティータイムを楽しむリューオとユリスが見えた。
──は、薄情者め……!
「シャル、お前は知らねぇかもだけどな、魔界にはお前に危害を加える恐れのある存在は、跡形もなくこの世から消し去るという法律があるんだ。それを殺すなというから、俺はねじ曲げてんだぜ? 元から譲ってんだ。手足捩じ切るぐらいは構わねぇだろ?」
「さり気なく手足に変わってンぞ、あの嫁バカ」
「先々も呪ってくるかもしれない相手の処罰にしては、まだ優しいでしょ? それに流石にデフォルトのほほんな天然男も、あんな自分ピンポイントの法律とか信じないよ」
「ふぐっ、馬鹿な……! 法律があるのか……!?」
「信じちゃってんぞ」
「ああもぉぉぉおコイツいい加減疑うことを覚えなよおおぉもおぉぉぉっ!」
なんということだ。
いつの間に俺基準の法律ができていたんだ……!
慈悲深い語調で語られた衝撃の事実。
俺は驚愕にわなわなと震える。
アゼルの後ろからバカを見る視線を感じるが、それはよくわからない。
そんなことより、とんでもないこの法律をどうにかしなければいけないぞ……!
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