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第48話

「なるほど、その振る舞いは俺だからと言う事ではなく博愛主義者というワケか」 『然り』 つまりは俺がこういう性格なのと同じ道理らしい。愛おしそうにこちらを見つめながら、その瞳を見る者に向かって抱き寄せるように両手を伸ばす絵画は、確かに愛する者だ。 彼の道理を納得した俺に、リシャールはややあって『シャル』と呼んだ。 『私の事は嫌いかい?』 「?いいや。まだよく知らないからな」 『ふむふむ、では好きかな?』 「どちらかと言えばそうだな」 『ほうほう、では口に出して欲しい。君の口から私を認めてくれないか?久しぶりに外に出して貰えて、飢えているのだ』 「んん……リシャールが好きだ。好ましく思っている」 宝物庫に置かれていたのが寂しかったのか好きだと言わせたいリシャールに従い、俺は言われるがまま彼を認める言葉を吐き出した。 好きと言う言葉は減るものでもないから構わないが。好意を伝えるのはいい事だ、悪意を伝えるよりずっとお互い穏やかな気持ちになれる。 ただ一瞬、明かりが絵の具に反射したのかリシャールの目が光ったように見えた。 『──ありがとう、シャル』 「うん?どういたしまして」 嬉しげな声で静かにお礼を言われて俺はよくわからないまま返事をしたが、リシャールはそれっきり声を発することがなかった。 幽霊らしいからな、成仏したのか? 霊感のない俺の初めての霊体験。 想像していたよりあっさりとしたものだったが、アゼルを出迎える為先を急いでいた俺は、静寂に佇む踊り場を後にした。 せっかく知り合ったのだし、今度何か、線香でも上げに来ようか。 いや、死者ではないしな……この世界ではどういう方法があるのだろうか。 何気ない涼やかな夜の、不思議体験である。 ♢ 「ン、ん…、っ、あ」 身体を揺すられる度に肌に張り付く暖かなお湯が、ちゃぷんと跳ねる。 湯船に浸ったせいだけではなく、全身が熱く火照ってやまない。 柔い肉を押し広げて深くまで穿たれ、吸血の催淫毒がなくても十分すぎる程響く快感で体中が痺れていく。 暖かな湿気に包まれた浴室に空回る、艶めいた自分の喘ぎ声。 浴室独特の響き方をするそれが恥ずかしくて、俺は向かい合わせに抱き合って腰を抱くアゼルに困り気味な視線を送った。 「風呂から、ン、あがってから、っ、じゃだめだったのか…?あっ、ん、コラ、話…」 「魔族が着飾って詰め込まれる夜会だぜ、人型だけじゃねぇよ巨人とか獣もいるんだ。さっさと残り香を洗い流して、お前の香りで上書きさせろ」 「はっ…ふふ、一石二鳥だな」 「ん」 性急な行為に物申すと、よっぽど夜会が嫌いなのか、仏頂面のまま胸元に鬱血痕を散らせるアゼル。その頬に手を添えて、ちゅ、とキスをする。 こちらの飢えた魔王様。 俺が部屋で待っていると間もなく帰ってきたのだが、帰ってくるなり「補給させろ」とぎゅうぎゅう抱きしめられ、あれよあれよと風呂場に連行された。 その後今日読んだ本の内容なんかを話しながら体と髪を洗い、湯船に連れ込まれ今に至る。 抱き合って上書きはしたいが、風呂に入って余韻を拭いたいという欲望を同時進行した結果だ。 魔王の浴室が広くてよかった。湯船は男二人が入っても余裕があるからな。

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