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第70話

ガチャ 「シャル、いるな?」 「いる」 あれこれ思案する中で散らかした部屋を片付けた頃、休憩時間になったのだろうアゼルが様子を見に来た。 相変わらずずっと表情は固く冷たい雰囲気だが、俺の姿を見つけてほんの少し表情を緩めた。 アゼルはテーブルの席につき、足を組んで向かい側を顎でさす。 俺はそれにならい向かいの席に座った。 素直な俺を見て、アゼルは目を伏せる。 あの夜から少しずつズレていく俺達の気持ち。 俺も少し、目をそらした。 「……前みてぇにお前の身が危険なわけじゃねぇのに、俺がまたお前を閉じ込めてる事、嫌じゃねぇのか?あの幽霊に盗られそうになって、怖くなったから……我儘でしてる事だぜ」 後ろめたいような言い方でそんな事を言われて、俺はてっきり今日は何をしていたとか、リシャールがやってきたかとか、そういうことを聞かれるのかと思っていたから、驚いた。 そうか、俺にとってもリシャールは危険でこうして守られている方が安心だから当然だと甘受していたが、なにも知らないアゼルからすれば、突然湧いて出た親しげな男と関わらせない為に束縛しているにすぎない。 恋敵への警戒にしては過剰な仕打ちだ。 そんな事、全く気にしていなかった。 操られている俺と、それを知らないアゼルでは、見えてる景色が違うのだ。 「嫌じゃない……嬉しい」 言葉を奪われないように、告げる内容は選ぶしかない。 いつもの俺より覚束ない話し方だったが、問題ないと返事をする。 アゼルは逸した目をテーブルの上にうろつかせて、気を落ち着けるように息を吐く。 「お前が、庇うなら、俺は、俺、は、我慢、する……から、あの霊が、お前の何なのか、言えよ……俺が、暴れるから、駄目なら、我慢する、から、」 細かく言葉を区切って、感情的になり威圧するのを抑えながら尋ねられ、アゼルは俺が何か隠していると察している事に気付いた。 俺の行動がチグハグすぎて、何かあるに決まっていると、そう思ったんだろう。 ──言いたいに決まってる。 だが、言えないんだ。 お前に隠し事なんてしたくない。 あんな裏切り行為、したくない。 嫌だ。 嫌だ。 でも。 「……何もない、ただ彼は俺を愛する王子なんだ。それだけだ」 「ッう、ぅ゙…ッ」 それに対する答えはもう用意されている。 その答えは、アゼルを苦しげに呻かせ、手が白くなるほど握りしめていた。 俺はぎゅうっと眉間にシワを寄せ、祈るしかない。頼む、信じていてくれ、頼む。 伝えられない事こそが、異常だと気付いてくれ。俺がお前に隠し事なんて、素知らぬ顔でできるわけないじゃないか。 身勝手な期待だが、信じてくれる、はず。 俺とお前はいつだって二人見つめ合ってきた、俺の縋るものはそれしかない。

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