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第218話

 ♢  うっかりおセンチになってしまったがために、二人きりの言葉だけの簡易結婚式を上げ、一戦交えてしまった俺達。  いろいろと我に返った後、嬉し恥ずかしい気持ちになりつつも、予定より遅れて予約していたお店へやってきていた。  残りのウィンドウショッピングの時間を全部使っても足りないくらい、熱い一戦だったからな……。  貧血にならないくらいの献血程度にしてくれたが、吸血されたので、正気に戻るまで休んでいたからというのも一因だ。  アゼルが濡らしたハンカチで綺麗にしてくれたが、俺は未だに少し体に違和感があった。  後処理の受け皿にされた上着は、くしゃくしゃのドロドロだ。  なので現在のアゼルは、俺の向かいの席にてシャツにベストの肌寒い格好のまま、真剣な顔をして座っている。  ちなみになぜ真剣なのかと聞いた答えは、 「気合い入れねぇと、かつてないほどデレデレになっちまうんだよ……」  だったぞ。  深刻なことを伝えるようにそんなセリフを言われた俺は、頬を染めながらもにもにと照れ臭いのを我慢した。  しかしそうしているとより眉間にシワを寄せられたから、俺が嬉しそうにするのを見るのもダメらしい。  アゼルの発作はそういうものか……。  ここに来てようやく、長年の発作のシステムがわかったぞ。俺のなにかしらの挙動が原因だな?  それだと結局はよくわからないが、アゼルについてわかったことがあるのは嬉しかった。  ゴホン。  まぁそんなわけで。  俺はアゼルに倣って真剣な表情を作り、注文した料理が来るのを待っているのである。  テーブルに両肘をついて、どこかの司令のようなポーズでお互いに向き合うディナータイム。  あまりじっと見つめるとアゼルが険しさを増すので、たまに目線は外すぞ。  それでも甘いデートとは思えない異質な状況だが。  せっかく眺めのいい屋上なのに、席についているのは俺達だけだ。言わずもがな魔王効果である。  なのでこんなことをしていても、誰も不審に思わないのだ。  傍から見れば真顔の男同士がじっと向き合う、謎の光景。  人目につかないところでだが野外セックスをヤりきったばかりなので、俺としても最早このくらいじゃ、なんとも思わない。 「というかアゼル、俺は別にデレてくれても構わない。むしろとても嬉しい。俺は今非常に幸せだ」 「そう言うことを言うんじゃねぇ、俺から威厳という威厳が消えてなくなるぜ。せっかく格好つけて人間の結婚式の言葉まで言ってみせたのに、残念になるだろうが」 「そう、誓いの言葉だ。お前いつの間にあれを覚えたんだ? 結婚式なんて知らなかったくせに、いつかやろうと思ってわざわざ覚えたなんて、まったく持っていじらしいやつだ。可愛い。愛おしい。感極まって泣いてしまったじゃないか。俺を幸せで殺すつもりか」 「だからそう言うことを言うんじゃねぇ。俺が幸せで死んじまうだろうが」  それは困る。  真面目に話しながらも、俺たちは幸せすぎてもどちらか死んでしまうようだ。  ううん……アゼルが死んでしまったら、俺はきっと泣いて泣いてとても泣いて、枯れ果てながら後を追ってしまうだろう。  寂しい。一度味わったアゼルとの幸せを失ってしまうと、生きてはいけるが寂しくてたまらない。  だからもしもアゼルが俺より先に逝ってしまったら、そうだな……俺の人生も幕を引こうと思う。  ふふふ、俺が取り残されたらそうすればいいだけの簡単な話だ。アゼルにはそうしてくれと思わないし、言わないが。されたら叱る。  でも俺はいい。  守るべき子がいないのだから、一人になったら思いっきり自分勝手な行動を取るとしよう。  そんなことを言うとアゼルは馬鹿なことはやめろと言うだろうから、これは俺だけの秘密だけどな。  真っ直ぐにしか生きられないのだ。  真っ直ぐに愛していこう。

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