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第332話(sideアゼル)
「だけどな、流石に大声で俺のはずかしい話はやめるんだ。喜んでコスプレする変態だと思われてしまう。それは頂けない」
頭をなでていた手が離れて、言い聞かせるように人差し指が立ち、そんなことを言われた。
ちょうど良くリューオが部屋にたどり着いて、同じことをユリスに言われながら、来るのが遅いと踏みつけられている。
頭がカーペットにめり込んでやがる。
俺はさっきまでの話を思い出して、なにもおかしなことは言ってねぇとむっとした。
シャルが犬タイプなのは本人も自覚してる事案だ。
コスプレ云々の問題じゃねぇ。断固俺の趣味嗜好だぜ。
「俺は別にあのクソ馬鹿脳筋野郎に、シャルは猫じゃなくて犬だって教えてやってただけだろうが。どこが変態なんだよ」
「後半の首輪云々と、語尾にわんを付ける日の回想あたりだな……。けれど、ほら」
「あぁ?」
シャルはふてくされる俺に、のんびりしたいつもどおりの表情で告げる。
「そんなに気に入ってくれている俺の獣人化の良さを魔王城中に聞かせてしまうと、お前だけが知っている俺が減ってしまうじゃないか。俺はお前にだけ、全部知っていてほしい」
「二度とやらねぇ」
もう絶対にやらねぇ。
頼まれても叫ばねぇよ、だって俺だけが知ってるシャルの可愛さだからな……ッ!
真剣に即答すると、シャルはん、と頷いてまた俺の頭をよしよしとなでてくれた。
「いいこだな、アゼル」
「くくく、俺だからな……!」
感極まって抱きつくと、シャルはされるがままで抱きしめられている。
ふふん、シャルは俺の頭を踏み潰したりしねぇんだぜ、俺の好きなようにさせてくれる。
ちょっとしたくなったプレイも拒否されねぇぞ。
「この僕に迷惑をかけるなんて、矮小な自分のゴミみたいな脳みそが恥ずかしくないの!? 僕の恥をさらしたならお前のその情けない土下座姿も魔界中にさらけ出してきたらいいんじゃない!? 世界の笑いものになってから改めて謝罪が欲しいよまったくッ! 受精卵から人生やり直して来いッ!」
「はいすみません本当勘弁してくださいマジで反省してます俺の口がお粗末なばっかりに大変な思いをさせてしまい申し訳ございません……ッ!」
「はぁ? その程度の謝罪で許されると思ってんの? 人のこと散々犬だの猫だの言っておいて、自分はなに? 犬のほうが利口でしょ。犬にさんをつけてね? 今後、敬語で従いなよ? 生まれたての子猫でもお前より可愛げあるから」
「ううううマジで許してほんともうしない俺約束すっからほんと勘弁してくれッ! お前が俺の部屋に泊まってくんねぇから焦っちまっただけで……ッ! も、もっとなんかこう超絶テク身につけてくっからァッ!」
「じゃあまず恐れ多くも魔王様にじゃれついてないであの強盗襲来後みたいな部屋を片付けろこのデリカシー皆無なノーロマンスバカにゃんこッッ!!」
「にゃ、にゃんッ!!」
夢中でねこじゃらしにじゃれついてたら、部屋の中ぐちゃぐちゃにしてしまったバカな猫。
まさに今のリューオのことだろう。
グリグリと頭を踏み潰されている。
そんなリューオに対し、考えるより先に暴れだす馬鹿をどう料理してくれようか、と仕置くユリス。
「シャル、ここはどうなってんだ? 感度上がってんのか?」
「ん、こら。触ったらダメだ」
「う、」
「よし、偉いぞ。ここはあんまり感覚なくなってきてるな、また今夜見てみてくれ。だから夜まで、我慢だ。な?」
「グルル……、絶対だぞ、勝手に外すなよ」
「大丈夫だ」
そしてシャルに抱きつきながら胸元をつつこうとしてそっと止められる俺と、俺のオイタを軒並み無自覚にのほほんと操っているシャル。
後に俺の帰りが遅いのでどうせシャルのところだろうと当たりをつけ、ライゼンがやってくるまで、このカオスが続くこととなる。
ライゼンは後日この光景を「犬とか猫以前に、シャルさんは飼い主で、ユリスは調教師では?」と遠い眼差しで語っていた。
つまり俺はシャルの飼い犬か。
……悪くねぇぜ。
ワンニャン決定戦は予想外の結論に。
俺の嫁はわんでもにゃーでもなく、世界で唯一魔王を躾けられる──ある意味最強の飼い主様である。
十皿目 完食
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